【迫る衆院選・農業への逆風】残る風評、重なる災害が追い打ち

 
凍霜害を受けたナシの傷の状態を確認する石田さん。「農家が意欲を失わずに農業を続けていけるように」と願う

 「どうにか残っている実を大切に、一つずつ収穫していくしかない」。モモ収穫の最盛期を迎えた今月中旬、桑折町の阿武隈川沿いにある畑で、モモ農家の男性(43)は切々と語った。今春、県北地方を中心に全県を襲った凍霜害。男性が所有する畑も大きな被害を受け、約120アールのうち8割超は収穫が見込めない状況だという。

 県内では4月の数日間にわたる降霜で、平成以降で最多、記録の残る1980(昭和55)年以降でも過去2番目に大きい27億円超の農作物被害が発生した。東京電力福島第1原発事故の風評被害が残る中、おととしは東日本台風(台風19号)、昨年はモモせん孔細菌病の流行、今年は凍霜害と毎年のように自然災害が相次ぎ、本県農家に追い打ちを掛けている。JAグループの担当者は「ただでさえ農家の高齢化が進む中でこうも災害が重なり、普通なら産地を喪失しかねないくらいだ」と危機感をあらわにする。

 凍霜害の発災から約1カ月後、国や県は樹勢回復や営農継続のための支援策を構築した。「経験がないほどの被害だったが、手厚い支援があって助かった。どのくらい商品として出荷できるかはまだ分からないが、支援をうまく活用して何とか難局を乗り越えたい」。地域一帯が被害を受けた福島市のナシ農家石田仁一さん(68)は前を向く。

 一方で、県産農産物への風評はいまだ根強い。農林水産省が昨年度に行った県産農産物などの流通実態調査では、県が重点品目とする牛肉やモモなどの価格は全国平均を下回ったままだ。14カ国・地域は今も県産食品の輸入規制を続けている。福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針決定による風評や、新型コロナウイルス感染拡大に伴う発信機会の喪失など新たな課題も生じている。

 「復興五輪」に位置付けられた東京五輪でも、県産食材などを使った選手村での食事を見合わせた国があった。

 ただ、野球・ソフトボール競技のために本県を訪れた各国関係者の間で県産モモのおいしさが評判になり、メダリストに贈られる「ビクトリーブーケ」に県産花が使われたりと明るい一面もみられた。

 本県農家は東日本大震災からの10年、風評被害や自然災害に苦しみながらも努力を重ね、苦境を乗り越えてきた。だからこそ石田さんは切に願う。「県内の農家が来年も再来年も意欲を失わずに、希望を持って農業を続けていけるようにすることが何より大事だ」