【知事選・福島のこれから】総合計画「自分ごと」 仕組み重要

 
中学生に総合計画の特別授業をする内堀氏。若者が関心を持ち、本県の将来を考えてもらうための取り組みを続ける=昨年12月

 第22回知事選で3選を果たした内堀雅雄氏(58)は、復興・創生を前進させるための公約として本年度スタートした県総合計画(2022~30年度)を基にした政策を掲げた。3期目に入る内堀県政が描く将来像が盛り込まれた総合計画。県の諮問を受けて策定に携わった県総合計画審議会の岩崎由美子会長(57)は、行政の枠組みを超え多くの県民が計画に関わっていく仕組みづくりの重要性を指摘した。

 総合計画は県づくりの指針となる最上位計画。環境や福祉、産業、地域振興など各分野の学識経験者からなる審議会が約3年かけて議論を重ね、県議会の議決を得て昨秋に完成した。県は策定過程で小中学生や高校生、大学生と対話型の講座を開き、聞き取った意見を反映させるなど、県民に関心を持ってもらう取り組みを進めてきた。策定後も、内堀氏や県職員が出前講座で児童生徒や学生ら約2000人に周知してきた。

 総合計画はあらゆる政策分野を網羅しているため、ともすると肝要が分かりにくかったり、身近に感じられなかったりする側面がある。県民に計画を「自分ごと」と捉えてもらうため、岩崎氏も「県民との対話の場を継続的につくっていくことが大切だ」と強調する。

 総合計画では、本県が直面する課題を三つに分類。「復興・再生」、自然災害や新型コロナウイルスなどの「横断的に対応すべき課題」とともに、大きな課題に挙げられたのが「人口減少対策」だ。震災後、ほぼ5年半に10万人のペースで減少が続く本県。若い世代には将来への危機感が募る中、根深い問題の一つとして、岩崎氏は若い女性の県外流出の増加を挙げる。

 近年、進学や就職を機に若い女性の都市部への流出が増えており「男性と比べて女性は地方に戻ってくる割合が低く、キャリアを生かして働ける場が少なかったり、性別役割分担意識や偏見意識が根強く残っていたりすることが、力のある女性の居場所を奪っている」と岩崎氏。「人口減問題の本質的なテーマだ」と警鐘を鳴らす。

 「知事就任から女性活躍に力を入れてきた」と自負する内堀氏は、総合計画の策定に当たっても審議会の女性委員の割合を倍増の4割超に引き上げた。会長を女性が務めるのも初めてで、計画の随所に女性の視点が盛り込まれている。人口減の問題は「何か一つ処方箋があれば解決するものではなく、長期的、多角的、総合的に取り組んでいく必要がある」と内堀氏。長期的、多角的な視点を盛り込んだ総合計画を着実に実現していくことが、3期目の内堀県政に求められている。

 県総合計画審議会長・岩崎由美子氏に聞く ビジョン共有、職員が汗を

 県総合計画審議会長の岩崎由美子氏は、3期目に向かう内堀県政の将来像を描く総合計画(2022~30年度)の意義を語った。県民に計画を「自分ごと」と捉えてもらうため「県民との対話の場を継続的につくっていくことが大切だ」と指摘した。

 ―総合計画に描いた将来像の実現に向け、何に重点を置いて進めるべきか。
 「計画のスタート地点にあったのは原子力災害からの復興再生。10年以上を経ても復興途上にある中で、未曽有の複合災害を経験した福島県がこれからの県づくりをどう進めていくのかという三つの理念を定め、その思いが『やさしさ、すこやかさ、おいしさあふれるふくしまを共に創り、つなぐ』という計画の基本目標に込められている。この理念が計画の軸になる」

 ―震災と原発事故を経験した本県の総合計画を作る上でどのようなことを心がけたか。
 「大きく三つある。一つは風評や分断、差別などの苦しみや困難を経験した福島だからこそ『誰一人取り残さない』という包摂性の理念を大切にすべきだとして持続可能な開発目標(SDGs)の視点を盛り込んだこと。二つ目は復興の過程で、新たな人とのつながりによって生まれたソーシャルキャピタル(社会関係資本)を大切にしたこと。三つ目は対話型の講座という新たな試みで若い世代の声を取り入れたことだ」

 ―計画の柱の一つの避難地域復興について、現状をどう捉えているか。
 「自治体によって復興の進度が違うため課題が多様化しており、広域自治体としての県の役割が一層大きくなっていると思う。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想などで新設された施設が真に地域に根付き、地場産業の振興や雇用の創出につながっているのかを検証していくことも必要ではないか」

 ―急速に進む人口減の問題にどう向き合うべきか。
 「近年、進学や就職を機にした若い女性の都市部への流出の増加が指摘されている。男性と比べて女性は地方に戻ってくる割合が低く、キャリアを生かして働ける場が少なかったり、性別役割分担意識や偏見意識が根強く残っていたりすることが、力のある女性の居場所を奪っている。若者が帰ってきたくなる地域をつくるのに何が必要かを真剣に考えなければならない」

 ―県民が総合計画に「自分ごと」として取り組み、計画を着実に実行していくためにはどんな取り組みが必要か。
 「総合計画には二つの役割がある。それは、県がどういう形で県づくりを進めていくかの基礎となる役割と、県民が地域づくりのビジョンを共有するための媒体としての役割。まずは県職員が、特に後者の役割を深く認識することが大切だ。その上で、県民に関心を持ってもらうために対話を重ねて計画を作ってきた取り組みを今後も続け、さまざまな場面で、計画について県民と対話する機会をつくっていくことが必要だと思う。計画の内容は多岐にわたるので、何か一つ重点テーマを決めて、審議会の委員らでプロジェクトチームをつくり、県民に成果を分かりやすく伝えていくことも重要だ」

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 任期満了に伴う知事選で、県民は現職の内堀雅雄氏に今後4年間の県政運営を託した。震災からの復興と地方創生に向けて課題が山積する中、本県の「これから」を探る。