【復興の道標・自立-2】将来見えず生活困窮 「ついに生活保護か...」

 
男性の11月のある朝の食事は白米と漬物。今後に不安があり、質素な生活を送る(写真はイメージ)

 「ついに生活保護になっちまうのか」。中通りの仮設住宅の一室。富岡町から避難する男性(60)は今夏、眠れない夜を過ごしていた。惨めな気持ちに、胸が締め付けられる。

 月額10万円の精神的損害賠償などとして東京電力から賠償金を一括で数百万円受け取ったのは数年前。しかし今夏、全財産は約20万円を切った。

 「他人よりも良い物を使う主義なんだ」。2012(平成24)年に別の避難先から現在の仮設に移った際、日本赤十字社から寄付された家電を知人に譲った。35万円のドラム式洗濯機、大画面テレビ、掃除機などを買いそろえ、電器店に約90万円を支払った。1人暮らし。震災、原発事故前は福島第1原発などで働いたが、今は仕事はしていない。パチンコ店には、よく通った。

 東電は8月、居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民への月10万円の精神的損害賠償の支払いについて、「18年3月まで」と発表した。原発事故後に受け取る精神的損害賠償の総額は、1人当たり850万円になる。

 原発事故から4年8カ月。避難指示の解除に伴い帰還する人や、賠償金を元手に土地や建物を買い求めて移住する人、復興公営住宅に移る人―。避難者はそれぞれの道を歩み始め、仮設に残る人も、新たな場所での生活に向けた準備を進める。

 その一方、生活困窮を訴える人もいる。一括で受け取った賠償金を無計画に使うケースに、避難者支援の関係者が頭を悩ませる。

 増える生活保護受給

 避難者の生活保護の受給は、避難先の市町村に申し込む。郡山市では11月現在、9人の避難者が受給している。「賠償金を使い果たし生活が苦しい」と理由を話す人が多いという。福島市内の避難者の受給者は13、14年はいずれも1人だったが、今年3月時点で16人に増えた。

 生活保護には至らない困窮者もいる。楢葉町の社会福祉協議会は、低所得者を対象に上限5万円の一時的な生活援助資金を貸し付けており、「賠償金が入ったら返済する」と言って借りていくという。

 富岡町の男性は10月下旬、2年分の賠償金として270万円を受け取った。夏のころと違って金の心配は和らいだが、今後は質素な生活を心掛けることにした。

 11月のある朝の食事は茶わんに白米と漬物。みそ汁代わりにとお茶をすすった。ガソリン代がかかるので車にも乗らない。「年金を受給する65歳まで、賠償金やアルバイトで食いつなごうと思う」

 (2015年11月30日付掲載)