【復興の道標・自立-3】生活再建めぐり「溝」 心の隙間が広がる

5月のある朝、浪江町から福島市の仮設住宅に避難する女性(69)が出勤しようと自宅を出ると、仮設の隣室の前にトラックが止まっていた。引っ越し作業中だと知った。
住んでいた老夫婦は、あいさつもなく退去。自宅を新築したとのことだが、行き先は知らない。
「仮設1棟に住むみんなは1家族」。女性はそう思い、積極的に野菜や果物をお裾分けした。「4年も一緒に住んでいたのだから、本当ならハンカチの1枚でも持ってくるだろう」と思う。
東京電力からの賠償額は、同じ浪江町民でも住んでいた地域が帰還困難区域に当たるか、居住制限区域かなどで異なる。生活再建の方法も家を新築したり復興公営住宅に移ったり、さまざまだ。老夫婦が周囲に今後のことを伝えなかったのは、自立の道筋がまだ決まっていない人への配慮だったのだと、今は思える。
「相手だって、黙って去るのはつらかっただろう。町民間に格差をつけた国と東電が悪いのだから」と話し、付け加えた。「それでも、本当に悲しかった」
生活再建、自立に向け避難者の状況が変わるのに伴い、避難者間の心の隙間が広がるケースがある。
「仲良くしたいのに」
浪江町民が暮らす桑折町の桑折駅前仮設住宅。隣接地に桑折町が公営住宅を建設し、6月に仮設の住民の一部が移った。
この秋、仮設自治会と公営住宅に移った人でつくる自治会との間でトラブルが起きた。仮設の集会所の掃除当番をめぐるものだった。
「集会所の掃除当番には加わることができないと言われた。公営住宅に住む人も、集会所を使用しているのに」。仮設の自治会長を務める蒔田幹男(63)は不満を語る。
蒔田は4月に会長に就任した際、「公営住宅に移れば、仮設の人と仲良くできない」という趣旨のうわさを聞いた。「この間まで一緒の仮設で暮らした者同士だから融和に努めてきたが、こうした事態は残念だ」
一方、公営住宅の自治会長岡部正人(63)は「集会所の掃除は仮設の問題。手が余れば手伝うが、こちらは人数がいないし、高齢者も多く、労力的に難しい。こちらの住宅の人が集会所を使う際は、その都度掃除をしていると聞いている」と話す。
こうした事態に、仮設に住む男性(67)は言った。「本当はみんな、仲良くしたいと思っているのだが」(文中敬称略)
(2015年12月1日付掲載)
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