【復興の道標・自立-8】「復興バブル後」懸念 数多くの現場に商品を届けたが...

「除染で使う道具がほとんど。普段、こういうものは仕入れないんだけど」。さまざまな種類のチェーンソーの刃や防じん眼鏡、シグナルライト。楢葉町の住宅地にある金物店の店内には本来、鍋や食器などが並ぶはずの「町の金物屋」に似つかわしくない商品が並び、店主の男性(68)はつぶやいた。
店は2012(平成24)年に再開。いわき市の避難先から通いながら営業する。今年9月の避難指示解除前に店を開けたのは、除染を行うゼネコンから注文があったためだ。ピーク時には数千人が働いた町内の除染。数多くの現場に商品を届けた。多忙を極め、友人3人の手を借りた。売り上げは震災前をはるかに超えた。「避難指示解除前から商売できたのは体にも精神的にも良かった。何もしないで避難先にいたら、もっとつらかっただろう」と振り返る。
町の事業者が参画
「多くの人が入って来て、終わってみたら人も金も中央に吸い上げられ、地元に残らなかった―ではだめだ」。楢葉町商工会長の渡辺清(66)は町内の除染を担う前田・鴻池・大日本土木JVの協力を得て取り組んだ「楢葉方式」への思いを語る。除染の道具を地元で調達してもらうなど、町の事業者が国の「巨大事業」に参画。仕事を生み出し、自立への足掛かりにする仕組みだ。「町民が戻るまでの『当面の売り上げ』がなければ、事業者は帰還できない」と有効性を語る。
「復興バブル」ともいえる状況を足掛かりに、再起を図る事業者たち。前を向きつつ、不安も抱えている。
廃炉や除染に携わる作業員が多く住み、「復興拠点」として機能しつつある広野町。町の商工業者への聞き取り調査などを行ったいわき明星大准教授の高木竜輔(39)=地域社会学=は、建設業やホテル業の業績が好調な一方、飲食店は作業員向けに単価を下げて提供するなど、それぞれの業種が町の復興拠点化への対応を迫られていると指摘する。
楢葉町の避難指示解除に続き、富岡町も17年の帰還開始を目標としている。こうした動きに合わせ、復興拠点も福島第1原発に近い北部へ移動することが予想されている。高木は「復興拠点から生活の場としての町へと速やかに移行するとは限らない。その場合、一部の事業者の売り上げが減少することも考えられる」と語る。
「除染が終われば商売になんねえ」。楢葉町の金物屋の男性も「除染後」を心配する。除染の道具が並ぶ店内を見回し、頭をかいた。「こういうの、町民は使わねえよなあ」(文中敬称略)
(2015年12月6日付掲載)
※「自立」編は今回で終わります。近日中に番外編を掲載予定。
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