【復興の道標・作業員-5】労働問題「国が放置」 相次ぐ雇用トラブル

 
県内各地で行われている除染作業。県民も多く従事している=福島市

 「俺たちは虫けら同然だ」。2012(平成24)年春から除染作業員として働いている郡山市の男性は吐き捨てた。

 大手企業に30年ほど勤めた後、別の会社に移った。しかし、震災後に倒産。「何かお金になる仕事はないか」と考えていた時、除染作業が目に留まった。原発事故後の環境回復のため、郡山市や福島市などで作業に汗を流した。

 「そんなことしなくていい」。昨年、庭の土の放射線量を下げる手法や除染で出る排水の処理について、この3年間、自分が続けてきた手法を変えるよう指示を受けた。代わりに指示されたやり方は、かなり簡略化されたものだった。「線量が下がらなくても、作業さえすればいいと考えているのではないか」。地元の人間として疑問を持ったが、文句は言えなかった。

 当初は除染を「復興に貢献する仕事だ」と捉えていた。「ありがとう、きれいになったよ」。住宅除染の現場で感謝の言葉を受ける度に、やりがいを感じた。しかし、現場で作業の指示をしてくるのは県外から除染に参入した会社の人間だった。連絡先も知らないような会社だ。「利益重視」「早さ重視」が目に付き、違和感が拭えなかった。「県外の会社に県内をかき回されている。いくら努力してもむなしさを感じる」

 県外の作業員だけでなく、県民も多く従事する除染作業。復興に向けた作業でありながら「仕事に誇りを持てない」との声が上がる。

 「『復興のため』と志を持って除染に加わろうと思っても、参入に二の足を踏んでしまう人もいる。計画した段階で予見すべきだった労働問題が起こるべくして起きている」。労働法を専門とする福島大准教授の長谷川珠子(38)は指摘する。

 除染をめぐる請負構造の末端で、予定通りに賃金が支払われないなど雇用のトラブルが相次ぐ。期日に間に合わせようと人員確保に走った結果、他の現場では働くことができないような労働者が全国から集まっている。

 こうした状況は想定できたはずなのに、除染完了を急ぐ行政は手を打たなかったと長谷川は考える。「除染作業員のイメージ悪化につながった。早い段階で環境省や厚生労働省など関係省庁間で議論すべきだった」

 郡山市の男性は、うつむきながら原発事故後の日々を振り返った。「カネに目がくらんだ自分がバカだった。除染の仕事に就いたことを後悔している」(文中敬称略)

 (2016年1月11日付掲載)