【復興の道標・不信の連鎖-5】市町村、怒りの矢面に 市の回答「住民不満」

「こんな時なんだから、(町民に)言い返してはだめだよ」。埼玉県加須市で避難生活を送る元双葉町職員の女性(59)は、原発事故直後に上司から言われたひと言が忘れられない。双葉町の避難所となった加須市の旧県立騎西高校で、町民から大声で怒鳴られ、思わず言い返そうとした時だった。
「仕方のないことなんだ」。何かを悟ったかのような表情で、慰めてくれた上司の言葉のおかげでこらえることができた。
「誰かが町民の声を聞いてあげなきゃと思っていたけど...」。女性職員自らも避難を強いられながらの仕事に心身ともに疲れ、町民の言葉を受け止めることができなかった。全町避難で町職員の多くが家族と離れて暮らしながら町民に寄り添い、懸命に仕事を続けた。
しかし、原発事故で故郷を追われた町民の怒りや不信感は、東京電力や国だけでなく、最も身近な市町村の職員に向けられた。「国や県の方針が固まらない中で、町職員として何も応えることができない悔しさもあった」。住民避難を強いられた市町村の職員は、住民の矢面に立ってきた。
避難から5年が経過した今、住民の思いは複雑だ。2011(平成23)年4月に発行を始め、3月で71号を迎えた南相馬市小高区川房地区の情報紙「川房通信」。県内外の避難者をつなぐこの情報紙には最近、住民と行政との懇談会の様子を伝える記事が紙面の多くを占めるようになった。
川房地区は居住制限区域で、避難指示解除の時期や除染を巡る住民側の質問と、質問に対する国や南相馬市の担当者のやりとりを伝えている。
川房通信を発行する中里範忠(78)=北海道富良野市に避難=は「市の回答は『国の言う通り』や『国に要望している』が多い。国を批判することは難しいかもしれないが、はっきりしない市の回答にも住民の不満はある」と話す。市の復興関係部署の職員は「住民への説明は尽くしてきたのだが...」と困惑する。
中里の目には、避難指示の解除など地域の将来を左右する問題に対し、市の施策が国の施策に偏りすぎているように見える。「避難生活は5年が経過し、高齢者世帯では一方の配偶者が亡くなり、食事にも困るような状況もある。社会的弱者に最も身近で接する市町村の職員だからこそ、住民目線で仕事を続けてほしい」
住民と自治体との間に「見えない溝」ができるケースも出ている。(文中敬称略)
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