【復興の道標・不信の連鎖-7】生産者の努力伝える 調査の信頼度が増す

「原発事故発生間もない頃から、県産農産物が消費者から避けられるのを『風評だ、風評だ』と強調したことで、かえって政府や行政は人々の信頼を失ってしまったのではないか」
伊達市霊山町の小国地区で、再生可能エネルギーの普及や農業復興に取り組む「霊山プロジェクト」で現地代表を務める大沼豊(72)はそう指摘する。
小国地区は、事故があった2011(平成23)年、いくつかの世帯が「特定避難勧奨地点」に指定されるなど、事故の影響を大きく受けた。放射性物質の吸収抑制対策や汚染状況の調査などが徹底して行われた。
大沼は今、食品の安全性は十分保たれていると思っている。だが、汚染状況がまだよく分からなかった事故直後から安全性を強調する言葉が多用されたことで人々に不信が広がり、実際に安全性が確認された後の現状を正しく伝えることが難しくなっていると感じる。「データを積み上げた上で、『安全です』と発信すべきだった」
復興の取り組みを学ぼうと、小国地区には県内外から大学生の視察が相次ぐ。大沼は「今の生活を実際に見てもらうことが大事だ」と話す。
根強い風評の背景にある、政府や行政に向けられた国民の不信感。県産品の安全性を発信する県民の自主的な取り組みを「原発事故の被害を小さく見せようとしている」「政府の安全プロパガンダだ」と曲解する意見もある中、現状をどう発信していくかが問われている。
JA新ふくしま(現JAふくしま未来)と県生協連、福島大が連携して取り組んだ「土壌スクリーニングプロジェクト」。12~14年に同JA管内の果樹園や水田、畑約9万2千地点の土壌の放射性物質の濃度を測定した。全国の生協から約360人がボランティアとして参加した。
福島大の特任研究員として測定に関わった朴相賢(パクサンヒョン)(46)は、生協のボランティアが参加したことの意義は大きかったと指摘する。「生産者だけでなく、消費者も調査に関わることで調査結果の信頼度が増した。県産の農産物がなぜ安全なのか、県外の人が直接確かめることで、正しい理解を広めることもできた」
本県の放射線の状況を巡り生産者や研究者はさまざまなデータを積み上げてきた。朴は言う。「不安を抱く人々に、生産者らのこの5年間の努力を伝えたい」(文中敬称略)
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「不信の連鎖」編は今回でおわります。近日中に番外編を掲載します。
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