【復興の道標・復興バブル後-3】需要減見据える企業 新たな一手を模索

「無我夢中でやってきた」。バス運行会社「浜通り交通」社長の永山剛清(54)は、震災後の日々を振り返る。
会社は楢葉町にあった。原発事故で避難を強いられた直後、事故収束作業のため福島第1原発に向かう東京電力の社員や協力企業などの従業員送迎を担った。「来月からバス3台を増やしてくれないか」。事故後しばらくはほぼ毎月、急な注文が舞い込んだ。
従業員7人、バス7台で運営していた浜通り交通はいわき市に拠点を構えた今、従業員八十数人、バス51台の会社に成長した。スクールバスや観光も手掛けるが、今でもメインの仕事は東電関連だ。
昨年9月に楢葉町の避難指示が解除され、その北にある富岡町は避難指示解除を目指している。避難区域が縮小していけば、原発で働く作業員の住む場所もより北に移っていくとみられる。「作業員の拠点が第1原発に近くなれば、バスで往復する距離が短くなり、必要な台数は少なくなるかもしれない」。副社長の塚越良一(51)は、今後の需要を見通して危機感も口にする。
永山は、震災6年目以降の状況に対応していく考えだ。「原発事故後に増えた従業員の生活を守らなければならない。変わらず努力を続ける」 浜通り交通のように、震災と原発事故というピンチをチャンスに変え、発展を遂げた事業所は今、新たな一手を模索している。
人材派遣、業務請負業を担う「エイジェック」(東京都)も震災を境に県内で事業を拡大した会社の一つだ。
5年前、住民の避難などで働き手が減った県内製造業の現場に人材を派遣して「穴埋め」の役割を担った。正社員雇用を基軸に求職者の注目を集め、今や県内の製造現場で働く社員は震災前の倍に当たる約670人に上る。
7月には社員を対象とした職業訓練校を郡山市に開校する。ものづくりの現場で求められる機械の操作、保守技術などを教える学校で、派遣先の企業で即戦力となる人材を養成する。
県内の雇用状況を巡っては、復興関連事業の中でも除染作業の求人減が目立ち始めた。エイジェック常務統括本部長の栗原禎久(45)は「これまで除染に携わってきた人も積極的に採用していきたい」と話し、復興バブル後、さらに上昇を見据える。
栗原は、これまで復興支援を念頭に事業を展開してきたと話す一方で、こうも語る。「震災丸5年が過ぎて『支援』という言葉もおかしい。地域と共に成長していくことが使命だ」(文中敬称略)
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