【復興の道標・復興バブル後-4】変貌する最前線の町 「パイの奪い合いに」

「運良く事業をいち早く再開できたおかげで復興に貢献できた半面、その恩恵を受けてきたのも確かだ」。広野町の国道6号沿いに旅館・民宿「慶州」を営む山本明吉(66)は、東京電力福島第1原発の廃炉や除染などの作業員で満室の宿を見渡した。
震災前は、約40年続いた焼き肉店と旅館を一緒に構えていた。地震で焼き肉店は建物が傷み、再開を断念。事業を旅館だけに絞り、焼き肉店跡に約30人分の客室を増築した。
水道が復旧した2011(平成23)年6月に旅館を再開して以来、客が途切れたことはない。5年がたつ今も作業員で予約は埋まっている。
元々は東電広野火力発電所の定期点検に当たる作業員や、楢葉町にまたがるサッカートレーニング施設「Jヴィレッジ」の利用者が主な宿泊客だった。客層が様変わりした現状に山本は「しばらくはいい。でも今の需要がいつまで続くか先は見えない」と率直な思いを口にする。
広野町によると、町内の旅館やホテル、宿舎で暮らす作業員の数は3月25日時点で約3250人。宿泊施設は震災前の1.5倍(15施設)に増え、新たに約30の作業員宿舎が建てられた。さらに建設計画も持ち上がっている。
「復興最前線の町」に変貌しても、地域経済への波及効果は一部業種に限られる。広野町商工会の担当者は「作業員が入ってきても、帰還が進まない中で地元住民を相手にしてきた小売業などは厳しい経営だろう」と見込む。
「作業員はコンスタントに飲みに来てくれるが、地元の客は減った」。町内で飲食店を経営する男性の表情はさえない。地元住民の客足が遠のいた一因として、夜間のタクシー不足や作業員が集まる雰囲気が影響しているのではと推察する。ただ、その作業員の来店もやや減ってきた。スーパーの出店やコンビニの24時間営業の再開で買い物環境が改善し「宿で飲んだ方が安上がりだと思うようになったのかもしれない」と意識の変化を感じる。
廃炉まで30~40年かかるとされる中、作業員の需要を狙った産業は一見堅調だが、変化も出始めた。宿泊施設の乱立が続けば、1カ所当たりの需要減は避けられない。
山本は「受け皿が増え、いずれはパイを奪い合うことになる」とみる。だからこそ「慶州」では食事の質を高め、他社との差別化を図る。「満足できるサービスを提供できなければ、客は離れる。作業員の需要が落ち着いたとき、従来の顧客に戻ってきてもらえるかどうか」(文中敬称略)
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