【復興の道標・名なしの土地-上】増える「所有者不明」 用地交渉、施設建設の壁

 
大熊町の中間貯蔵施設の建設予定地。所有者不明の土地が計画遅れの要因となっている

 この墓地はいったいどうなるんだろうか」。震災前に大熊町で農業を営み、今は会津若松市に避難している渡部隆繁(66)は、中間貯蔵施設の予定地にある墓地の共同所有者の一人だ。

 墓地の持ち主は16人。住民が昔から管理してきた小さな墓地だ。持ち主には、亡くなったり連絡が取れない人がいる。震災前、地元に残る所有者らが共同墓地の扱いについて話し合う機会があった。町外に出た人と連絡を取ることができず、話し合いは断念した。

 渡部の元に昨年1月、環境省の職員が訪ねてきた。職員は中間貯蔵施設について説明し、渡部の話も聞いていったが、1年以上たった今では音沙汰がない。「住民にとって用地交渉は分からないことだらけだ。環境省は住民と膝突き合わせ、しっかり説明してほしい」。進まない施設建設計画と国の説明不足に、いら立ちを隠せない。

 総面積1600ヘクタールと広大な中間貯蔵施設の建設に向け、環境省は2014(平成26)年10月、持ち主一人一人との交渉を始めた。しかし、スケジュールは当初より大幅に遅れた。地権者への説明に時間がかかったことに加え、共同墓地のように持ち主が亡くなっているなど、所有者が確定できない「所有者不明」の問題があったからだ。土地利用の目的が、中間貯蔵施設ということも持ち主の理解を得にくくしている。

 明治や大正、そして江戸時代、数代前にまでさかのぼるこうした土地の持ち主のほとんどは、この世にいない。所有者が亡くなった後も、相続登記が行われず、代替わりして相続の権利を持つ親族だけが増えていく。

 今も全容把握できず

 福島環境再生事務所によると、3月末時点で中間貯蔵施設用地の交渉がまとまったのは約2400人の地権者のうち、83人の計22ヘクタールのみ。総面積の1%にすぎない。所在が分からない持ち主は約890人に上り、全容は今も把握できていない。

 環境省によると、持ち主の所在が分からない土地の面積は全体からすれば小さいが、共同墓地のように多くの所有者がいる施設などに集中している。担当者は「調査には多くの時間がかかる。解決には向かっているが、間違いなく整備が遅れた大きな要因だ」と認める。

 県司法書士会の会長を務めた高橋文郎(57)=郡山市=も震災後、避難区域で携わった登記手続きの調査などでこうした課題を実感してきた一人だ。

 原発事故の被災地では、原発事故の財物賠償をきっかけに登記の見直しが進んだ。その過程で、所有者不明の土地の問題が調査に当たる司法書士たちの頭を悩ませてきた。「所有者が分からない土地は震災で突然降ってわいた問題ではない。それが中間貯蔵施設の建設遅れなど復興の過程で顕在化してきた」と高橋は指摘する。「今後の復興事業でも、中間貯蔵と同じような問題が必ず起きるだろう」

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 復興が進む県内で、土地の持ち主の特定が容易にできない「所有者不明」の問題が足かせになり始めた。なぜ、こうした問題が放置されてきたのか。県内や全国の例から、背景と解決に向けた取り組みを探った。(文中敬称略)