「5年の歴史」編へ識者の意見【番外編 上】開沼博氏・立命館大特別招聘准教授、福島大客員研究員

◆開沼 博氏
未来見据え地域づくり
震災と原発事故を受け、本県では高齢化や地域づくりの在り方、医療福祉の問題など全国的な課題に拍車がかかった。「課題先進地」として、取り組むべきことはたくさんある。例えば(相馬地域で)糖尿病が増えているという問題が表面化した。
これに対し「医師を呼んできて病院を建てて」という対策でなく、予防医療の推進や地域での健康意識の醸成という地道な取り組みが行われており、成功事例も出ている。こうした課題に取り組むことは「未来をつくる作業」だと言える。
原発の廃炉や県内の除染、賠償などで福島に投入されるお金は十数兆円と言われる。こんな地域は国内を見渡しても他にない。これだけのお金や人が投入される中で、今を生きる私たちが何を見いだすことができたのか、未来の世代は冷静に、シビアに判断するだろう。「原発事故前には戻らない」と不満、不安を持つ県民がいるのは無理もないが、未来に生きる世代の視点も踏まえて今、何ができるのかを考える必要がある。
「あれが悪い」と文句を言うばかりでなく、自分たちがどのような地域をつくっていくのか、合意形成が必要だ。廃炉現場の原子炉建屋を壊した後、それをどこに持って行くかなど、まだ議論すら始まっていない問題も存在する。廃炉完了後、あの土地をどうするか、私たちに委ねられる問題だ。
風評被害の問題は続いているが、そもそも「風評」とは曖昧な概念だ。実態に沿って定義すれば「経済的損失」と「差別・偏見・デマ」の二つに大別される。前者は、消費者の県産品に対する意識のレベルの話から、流通レベルの問題に変わってきている。県産品はこの5年のうちに、首都圏などの量販店の棚を他県産に奪われてしまっている。これをどうやって取り返すかが課題だ。
一方、「差別・偏見・デマ」は、ようやく問題化した段階だ。昨年10月に行われた国道6号の清掃活動に対し、事実に反する非難が集まるなどの問題が起きている。しかし、そうした偏見、デマは「いけないことだ」と声が上がる風潮が形成されてきたのは良い変化だ。空気が変わってきたからこそ、問題が表面化したとも言える。
差別や偏見、デマに違和感を感じたらその都度、「それは違う」と表明するとともに、正しい事実を裏付ける科学的な根拠を出していくことが重要だ。
(2016年6月20日付掲載)
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