「5年の歴史」編へ識者の意見【番外編 中】渡辺正彦氏・福島県中小企業診断協会代表理事会長

◆渡辺 正彦氏(福島県よろず支援拠点チーフコーディネーター)
正念場迎える中小企業
賠償金の支払いが徐々に終わり、震災と原発事故を受けたさまざまな金融支援の返済が始まる時期が迫っている。復興特需のピークも過ぎつつある。こうした複数の要因が重なり、中小企業は今後、正念場を迎えることになるだろう。
阪神大震災でも復興特需後の景気低迷という反動は顕著だったが、本県では原発事故も起きており、「阪神」よりも大きな規模で反動の時期を迎える可能性がある。
今、倒産件数は戦後最低水準になっているが、賠償金や補助金がなくなるにつれ、中小企業を巡る厳しい実態が一挙に明るみに出てくるだろう。
震災後の5年間、販路拡大などの営業努力をしたくてもできない状況に追い込まれた企業は多かった。同時にこの間、賠償などの影響でそうした努力をせずにきたという側面もある。中小企業にとって震災と原発事故の最大の影響の一つは経営者のマインドが低下してしまったことだと思う。
この5年間の状況は震災と原発事故によって強いられたものだが、ある意味で中小企業が「復興」という言葉で守られてきた期間でもある。そうした時期は過ぎた。この「復興」の2文字を外して、商品やサービスの品質や本来の競争力で県外、国外と勝負していかなければならない。まさに正念場だ。
中小企業支援の本番もこれからだ。福島相双復興官民合同チームや、オールふくしま中小企業・小規模事業者経営支援連絡協議会などがこれまでに組織されたが、今後求められるのは、補助金のようなセーフティーネット型の支援ではなく、自立支援だ。つまり、本業を立て直すための販路開拓や人材育成など、補助金などと違って時間も労力もかかる支援のことだ。支援そのものの「質」を上げていくことが求められている。
今、震災前と同じように企業誘致が盛んだ。一定の効果はある。しかし、県外企業の工場などを誘致するだけで地元の企業を育てることを怠っては産業構造の脆弱(ぜいじゃく)性が解消できない。行政には地元の産業、特に製造業、観光業の育成・支援にこそ取り組んでほしい。
震災後、UターンやIターンで若い世代が起業するケースが出てきているのは明るい兆しだ。若い経営者は新しい発想で農業分野などにも参入しようとしている。こうした新しい動きへの支援は手厚くしていく必要がある。
(2016年6月21日付掲載)
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