【復興の道標・不条理との闘い】「笑顔は困る」と中傷 被災者へゆがんだ視線

 
広野町の国道6号沿いでごみ拾いに取り組む高校生。こうした活動も、県外からのゆがんだ視線にさらされる

 「おまえたちが笑顔では困る。泣き悲しんでいないといけないんだ」。NPO法人ハッピーロードネット(広野町)の理事長・西本由美子(63)はある時、こんな中傷の電話を県外の男性から受けた。

 本県沿岸部を南北に貫く国道6号の環境美化に取り組む清掃ボランティア活動「みんなでやっぺ!きれいな6国」を、浜通りの各青年会議所と協力して実施している。

 高校生らが、自分の通学路のいわき、広野、南相馬、相馬、新地5市町でごみを拾っているが、これに対し「子どもを被ばくさせる殺人者」などと国内外から活動を批判、中傷するファクスやメール、電話が殺到した。

 2015(平成27)年秋の活動に対しては意見が1000件を超え、昨年10月も前年よりは減ったものの約80件あった。9割は匿名だ。生徒たちは、自分の生活圏の清掃を行っているにすぎない。

 「泣き悲しんでいないと困る」との中傷もその一つだ。国の原子力政策への不信感などを背景に、東京電力福島第1原発周辺地域を「原発事故被害の悲劇の象徴の地」として固定しようとする外部からのゆがんだ思いが、県民を苦しめる。西本は「原発に賛成、反対とは関係なく、私たちがここで生活しているということを分かってほしい」と願う。

 こうした中傷の背景の一つには、国民の放射線への理解の乏しさもある。西本は若い世代への教育を重視する。昨年、県内の高校生らと共にチェルノブイリ原発事故で汚染被害を受けたベラルーシを訪問した。

 チェルノブイリ原発に近い南部ゴメリ州ホイニキ地区では、学校に放射性物質を測定する機器があり、子どもがキノコを測定して親に安全かどうかを伝えるなど、生活に密着した教育が行われていた。

 「ベラルーシでは、中学から高校に至るまで生徒が放射線について学ぶ。日本の放射線教育は今のままでは不十分だと感じた」。帰国後の報告会で、楢葉町出身で磐城高2年の鈴木洋佑(17)はこう述べた。

 県内では原発事故後、全小中学校で放射線教育が始まった。年2、3時間を目安に、放射線の基礎知識や食品の放射性物質検査、放射線を巡る偏見の問題などを学ぶ。しかし、西本は地域ごと、学校ごとの「温度差」を懸念する。

 昨年8月に国内外の高校生が参加していわき市で行われたハイスクール世界サミット。参加者は双葉郡内の被災地を見学した。開催前、主催する実行委員会の一人として西本は会津の高校2校に参加を呼び掛けたが、実現しなかった。ある高校の校長からは「放射線量を心配する保護者がいるので、生徒を行かせるわけにはいかない」と言われた。県内の学校現場に残る偏見を痛感した。

 西本はまずは県内で、放射線教育をより積極的に進めるべきだと考える。「地域に根差した教育を県内に広げ、県外にも発信できるようになれば、避難者に対するいじめや県民への偏見もなくせるのではないか」(文中敬称略)

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 復興の道標「不条理との闘い」編は今回でおわります。