地元の海、復活信じ清掃 新地の夫妻、20日海開き・釣師浜海水浴場

「二度と再開することはないかもしれないと思っていた」。9年ぶりの海開きを20日に控える新地町の釣師浜(つるしはま)海水浴場で、東日本大震災の年から清掃を続けてきた夫婦がいる。
被災経験を絆で乗り越え、慣れ親しんだ地元の海が元に戻る日を信じてきた。「ようやくこの日が来る。つらい経験があった分、時間がかかっても歓声が響き渡る以前の姿を取り戻してほしい」
1週間後の海開きを待ち焦がれるのは、新地町の川上亮さん(43)、照美さん(44)夫妻。震災による津波で祖母のシキ子さん=当時(86)=や家族同然だった猫、知人が犠牲になり、海水浴場から100メートルほど西側の家を失った。「もう二度と海は見たくない」。亮さんは地元の海を愛し、大会にも出場するほどのサーファーだったが、祖母らの命を奪った海に近づけなくなった。
◆がれき除去、奉仕団結成
「海で育った人。この人を海に戻さなければ」。夫を元気づけるために照美さんが考えたのが、がれきであふれかえる釣師浜の清掃活動だった。2011(平成23)年8月にサーファー仲間ら3人と共に始めた活動は、次第に賛同者が増えていった。
翌年の秋には、賛同者らと共に海岸清掃ボランティアのグループを組織し、照美さんが代表となった。毎月第4日曜日を活動日に定め、今では全国から250人以上が登録する。釣師浜以外の海岸でも活動。震災から8年4カ月を経ても生活用品や衣服、タンスなど津波で流されたとみられる漂着物も見つかる。
隊長を務める亮さんの心境も、少しずつ変化してきた。「震災前のように生活することが必要だ」。活動を始めて3年が過ぎるころ、照美さんと一緒にサーフィンを再開した。最近はようやく、海で笑えるようになった。
今月7日にも、約30人で釣師浜海水浴場を清掃した。照美さんは「多くの人のおかげでここまで来ることができた」と、亮さんと2人で空き缶などを拾った。
既に再開している県内の海水浴場は、震災前より海水浴客が少ない。照美さんは、海で遊ぶ習慣が薄れたことに加え、被災から海に抵抗感があると考える。「にぎわいが戻るその日まで活動を続けたい」。そう海に誓った。
◆8月3日には「遊海しんち」
釣師浜海水浴場は波が穏やかな遠浅のて知られ、震災以前には家族連れを中心に約8千~2万人の海水浴客が訪れた。
今年は20日に海開きイベントを行い、8月19日まで開設する。時間は午前9時~午後4時。8月3日には夏祭りイベント「遊海(ゆかい)しんち」も復活する。
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