国際教育拠点、具体化に向けた動き注目 立地場所調整も本格化

 

 政府は福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の中核拠点として浜通りに国際教育研究拠点を整備する。拠点を巡っては、法に基づく運営形態の方向性が定まった一方、研究内容など具体像はいまだ見えない。県は産業創出や人材育成につながる「世界に冠たる拠点」となるよう求めており、政府が3月末までに策定する基本構想をはじめ拠点の具体化に向けた動きが注目される。

 研究内容は「ロボット」「農林水産業」「エネルギー」「放射線科学・創薬医療」「原子力災害のデータ、知見の集積・発信」の5分野で、技術革新や新産業の創出を図り、研究者や技術者らの養成を進める方針で、具体的な中身を詰めている。このうち創薬医療は、がん治療などに用いる放射性医薬品の研究などを視野に入れる。研究内容は、最先端の研究者を拠点に集められるかどうかを左右する重要なポイントにもなる。

 政府は2月、拠点の法的根拠となる福島復興再生特別措置法改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指している。改正案には、拠点を運営する特殊法人「福島国際研究教育機構」の新設などを明記。機構は復興庁トップの首相と文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、環境の関係5閣僚が共同で主管し、復興相も調整に携わる。2023年度の発足を目指している。

 政府は今夏までに、研究開発プロジェクトの指針となる「新産業創出等研究開発基本計画」を策定する。策定に当たっては、首相が本県知事や国の総合科学技術・イノベーション会議の意見を聞いた上で定める。併せて、政府は立地場所について県との調整を本格化させる見通しだ。

 内堀雅雄知事は立地場所の調整について、「研究内容を踏まえ国が必要な施設や設備を検討し、面積などの条件を示す必要がある」と前置きした上で「条件を踏まえ適切な時期に地元市町村の意向を聞き、イノベ構想の効果が最大化される地域を選定して国に提案できるよう、広域自治体としての役割を果たす」との考えを示している。

 拠点の在り方を議論した有識者検討会は23年春の一部開所、24年度の全面開所を目指すべきだと政府に提言している。

 水素社会実現へ加速 物流実証、ステーション整備...

 福島イノベーション・コースト構想のエネルギー分野では、県とトヨタ自動車を中心に、水素で走る燃料電池(FC)トラックの物流実証が今年中に始まる見通しだ。燃料電池車(FCV)に水素を供給する定置式水素ステーションの整備も進み、県内で「水素社会」の実現に向けた動きが加速している。

 物流実証には県内のスーパーやコンビニ大手なども参加。普及が見込まれるFCトラックを活用した物流網によって水素活用の「福島発」のまちづくりモデルをつくる計画だ。実現には県内企業の参画が不可欠となるため、県は新たにFCトラックを導入する県内企業を対象にした補助制度を設ける方針。実証への参画を後押しすることで、水素の利活用を地域の産業振興や雇用創出、脱炭素化につなげる。

 県によると、県内の燃料電池車の登録台数は1月末現在で334台に上り、東北6県で最多。商用定置式水素ステーションの整備も進み、郡山市で2月に県内2基目の運用が始まった。新年度中には浪江町と福島市で整備が予定されている。水素を活用した熱利用や県内工場での水素とガスの混合技術の調査などの取り組みも進んでいる。

 東京五輪では、浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドで製造された水素が聖火台の燃料に活用された。次世代エネルギーの先進地を目指す本県では、国や県による手厚い支援の効果に加え、市町村や企業が一体となった水素利活用の機運が醸成されつつある。

 浜通りへの企業進出支援 空飛ぶ車やドローン研究

 福島イノベーション・コースト構想では、浜通りを「あらゆる挑戦が可能な地域」として発信し、ロボットや最先端技術の実証などに取り組む企業の進出や、地元企業との連携を支援している。

 2019年秋に開所した福島ロボットテストフィールドの研究棟(南相馬市)には21年2月現在、20企業・団体が入居し、「空飛ぶクルマ」や災害対応ロボット、橋梁(きょうりょう)点検ドローン(小型無人機)などの研究開発を進めている。施設の開所に先立ち、県は浜通りを「ロボット実証区域」として橋梁やダム、河川などを実証試験や操縦訓練の場として提供しており、21年2月末現在で502件を誘致している。

 地元企業と連携し、地域振興に向けた開発を行う企業も支援しており、「空飛ぶクルマ」の航続距離を延ばす研究など延べ327件を採択した。

 廃炉関連産業への地元企業参入に向け20年7月に開設した「福島廃炉関連産業マッチングサポート事務局」には152社の登録があり、県は新年度、廃炉関連産業コーディネーターや廃炉技術指導アドバイザーなどの専門人材を事務局に配置するなど支援体制を強化する方針だ。