「ここまでが長かった」 飯舘・長泥地区、秋にも「準備宿泊」

 
「長泥は自分にとっての本当の居場所」と準備宿泊を心待ちにする鴫原さん=飯舘村長泥地区

 東京電力福島第1原発事故に伴い帰還困難区域となっている飯舘村長泥地区。来春の避難指示解除に向けて整備が進む特定復興再生拠点区域(復興拠点)では「準備宿泊」が今秋ごろに始まる見通しだ。「ここまでくるのに長かった。帰還にめどが付いたのは一歩前進」。復興拠点に自宅がある農業鴫原清三さん(67)=福島市=は望郷への思いを口にする。

 2月下旬、連日の雪により銀世界が広がる長泥地区の自宅で、鴫原さんは除雪作業に汗を流していた。地区住民は日中の立ち入りが許可されており、鴫原さんは震災後から週に2回、自宅の様子を見るために避難先から通い続けている。「生まれ育った古里を忘れられないんだ。帰還後は農家として先祖代々の土地を守っていかなきゃならない」と思いを新たにする。地区では、除染で出た土壌を再利用する環境省による農産物の実証栽培が行われており、栽培協力者の鴫原さんは住民と共に花の栽培にも取り組んでいる。

 「準備宿泊の制度が整ったらぜひ活用したい。まずは家の中の片付けかな。ベッドも準備しないとだね。震災前の地区の風景や暮らしぶりが戻ってほしい」。11年ぶりとなるわが家での暮らしに思いを巡らせる。ただ、長引く避難生活により村外に家を新築したり、地区内の家を解体したりと、帰還を見据えた準備宿泊の利用者がどれだけいるかは見通せない。

 「長泥は地域行事が盛んで住民同士の絆が強かった。例え多くの住民が帰還しなくとも、月に1回程度顔を合わせる機会をつくり、交流を深められるといい。花を植えたりして人が多く集う地区にしていきたい」。長年暮らした住まいを前に古里の青写真を描く鴫原さん。住民や地区の未来を占う震災11年の節目が近づいている。