福島医大、創薬医療に参画 がん治療薬、2028年承認目指す

 
世界の最先端分野の研究を進めている(右から)伊藤氏、志賀氏、小早川氏

 福島医大、福島大、会津大の県内三つの国公立大は福島国際研究教育機構の研究に参画する。このうち福島医大は、五つの研究テーマのうち「放射線科学・創薬医療」と「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」の2分野に関わる。創薬医療では、すでに放射性核種(放射性物質)の「アスタチン」を有機化合物に結合させて開発した治療薬の治験を始めており、最短で2028年の薬事承認を目指している。

 治療薬は、体内に投与して副腎に発生するがんの一種「悪性褐色細胞腫」を放射線で直接治療する新薬で、治験は世界で初めて。24年1月まで実施し、薬の安全性などを調べる。

 アスタチンが出す放射線「アルファ線」は数十マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)しか飛ばないため、ほかの細胞をあまり傷つけることなくがん細胞を攻撃できる利点がある。同大はアスタチンを結合させたほかの薬剤も研究し、悪性褐色細胞腫以外のがん治療薬の開発も目指している。

 同大では16年4月に先端臨床研究センターが完成し、アスタチンを製造する装置「中型サイクロトロン」を国内で医療用として唯一所持する。放射性物質を扱える「RI病床」も国内最大規模となる9床を備え、世界をリードする研究環境が整っている。

 「原発事故に伴う放射線の被害を受けた福島の地で、放射線を使って患者のためになる仕事を進めたい」。プロジェクトリーダーを務める伊藤浩副センター長(58)は力を込める。伊藤氏は放射線を用いて病気の診断や治療をする「核医学」の専門医。日本が核医学治療で世界から後れを取る中、アルファ線を使った同大発の核医学治療が世界の最先端を歩んでおり、伊藤氏は「さらに研究が進めば、福島という名前が世界中に知れ渡ることになる」と期待を込める。

 1月末には、福島国際研究教育機構の先行研究の一環としてオンラインによるシンポジウムを開催。同大の研究などを紹介し、世界の研究者からも大きな期待が寄せられた。薬事法などに関する規制を担当する小早川雅男教授(50)は「アルファ線は未知の可能性を秘めており、がん治療の発展のために研究を進めていく」、治験の責任者を務める志賀哲教授(54)は「浜通りに新しい産業が生まれ、人を呼び込めば発展につながる」と決意を語る。

 福島大、会津大はロボットと農林水産

 このほか、福島大はロボットと農林水産業の2分野を担う。会津大は、役割や種類の異なる多数のロボットを集中的に管理し遠隔で操作するための基礎研究などに取り組む。