「創造的復興」拠点いよいよ 「エフレイ」4月1日始動

 

 福島国際研究教育機構(F―REI=エフレイ)が4月1日、浪江町に設立され、研究開発や産業化、人材育成などを通じ「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」を目指す取り組みがいよいよ始まる。新法人の設立が、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の下で進められてきた被災地の産業再生を加速させることにつながるのか、注目が集まる。

 政府は設立から7年間の運営指針として中期目標(第1期)を作成中。目標期間内に50程度の研究グループを組織し研究成果を産業化につなげていく。研究開発を円滑に進めるため7年間で1000億円程度の予算の確保を見込んでいる。

 エフレイは当面、浪江町の仮事務所で、理事長に就く山崎光悦氏を先頭に省庁派遣の職員らが運営に当たる。研究施設が完成するまでは、県内の大学や既存の研究機関などに研究開発を委託。重点分野には〈1〉ロボット〈2〉農林水産業〈3〉エネルギー(カーボンニュートラル)〈4〉放射線科学・創薬医療〈5〉原子力災害に関するデータや知見の集積・発信―の5分野を掲げた。

 これらの研究成果を地域に根付かせ、産業化につなげるため、5月にはエフレイと関係省庁、県、市町村、県内大学、既存研究機関などを母体に法律に基づく「新産業創出等研究開発協議会」を設立する予定。この場で「研究開発」や「広域連携」について検討していくことになる。

 廃炉ロボ技術開発急ぐ エフレイ理事長・山崎光悦氏

 福島国際研究教育機構の理事長に就く山崎光悦氏は、研究開発の成果を生かし「(被災地の)住民の課題の解消につなげたい」と意気込む。山崎氏に、新産業の創出や人材育成に取り組む機構の展望などを聞いた。

 ―機構の運営に向けた決意を。
 「速やかに研究成果を上げ、(課題解決のために応用する)社会実装に結び付けることが最大のミッション(使命)だ。研究者の配置や研究環境の整備を急ぎたい。人材育成や(研究内容と成果などを伝える)アウトリーチ活動、産業界との連携体制の構築も進め、地域との触れ合いを大切にしながら取り組みを進めていく」

 ―東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から12年となる被災地の課題は。
 「いまだに帰還困難区域が残っており、避難指示の解除に時間を要した地域では住民の帰還が進んでいない。産業が復活していないため十分な雇用機会がないことも要因だろう。今も複合災害の影響を拭えていない。機構は被災地の住民に夢や希望を与える『創造的復興』を推進する役割を担う。住民が直面する困難な状況を一つずつ解消していきたい」

 ―課題を踏まえ、早急に着手したい取り組みは。
 「まだ組織として了承されていないが、個人的には福島第1原発の廃炉に貢献するため遠隔操作型のロボットに関する基礎的な技術開発研究を急がなければならないと考えている。(除染が進んでいない)森林の再生に貢献できる研究にも取り組み、再び住民が森林資源を活用できる環境に戻したいとの思いもある」

 ―早期の産業再生を望む地元住民の声をどう受け止めているか。
 「期待は大きいと実感している。研究を進める中でどんな困難な状況や問題に直面するかはまだ分からないが、スマート農業の分野などでは比較的早く成果を上げることができるかもしれない。地域のニーズをしっかりと踏まえて研究を進める。既存企業の成長や若い世代のチャレンジも支えていく。そのために首都圏のベンチャーキャピタル(起業投資会社)の関心をどう引き寄せるかも重要なミッションだ」

 ―研究開発の中心となる国内外の研究者をどう集めるのか。
 「特に海外から優秀な研究者を呼ぶためには、いくつかの条件が必要だ。家族で滞在する研究者もおり、国際的な教育環境や英語に対応できる医療提供体制、高い水準の給料などが挙げられる。研究者らが地域コミュニティーの一員となれるような住まいの在り方も考えたい。生活環境の充実は極めて重要で、関係機関に希望を伝えていく」

 ―機構の重要な役割となる人材育成にどう取り組むのか。
 「近隣の大学生らに機構の研究に参加してもらう取り組みを進める。高専の学生や高校生に機構の使命や研究内容、魅力などを直接伝えるセミナーも行う。いずれはセミナーの対象に小中学生を加えるなど裾野を広げ、科学に興味を持つ子どもたちを育てたい。浜通りで生まれ育った人が研究者として活躍してほしいと願っている」

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 やまざき・こうえつ 富山県出身。金沢大工学部卒、同大大学院工学研究科修士課程修了。同大理工学域長、副学長などを経て、2014年4月から22年3月まで学長。71歳。