【首長に聞く】大熊町長・吉田淳氏 帰還へ、働く場と住む場

 
吉田淳大熊町長

 大熊町は、大川原地区を復興の足掛かりとして原発事故からの再生を進めている。今年春ごろには、かつて町の中心部だった下野上地区を含む特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除を目指しており、吉田淳町長は「住民の帰還に向け、働く場と住む場の確保は欠かせない」と語る。

 ―町の復興状況は。
 「大川原には町役場、住宅、診療所、複合施設ができた。来年春には教育施設が開校し、大川原の計画はほぼ完了する。しかし、居住人口は当初計画よりまだ500人ほど少ない。一方で、明るい兆しもある。復興庁が2月に公表した住民意向調査では、大熊に戻りたいと考える人が前回調査と比べて3.5ポイント増えた。これは非常に大きい。住む人や働く場が増えていることをさらに発信したい」

 ―今年春ごろの復興拠点の避難指示解除を目指しているが、現状と課題は。
 「上下水道や電気のインフラは整い、残すは放射線量の問題だ。2月の除染検証委員会では、まだ線量が高いところがあると指摘があった。早く解除したいが、一番大事なのは住民の安全安心だ。国に対し、再除染と安全安心の担保を求めているところだ。大野駅周辺では2024年春をめどに、産業や交流などさまざまな分野の施設を整備する。町民生活を活性化させることで、駅前にある県立大野病院の再開にもつなげたい」

 ―町は40年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指すゼロカーボンビジョンを掲げている。狙いは。
 「県内初のゼロカーボン条例を昨年に制定した。事業者にエネルギー消費量の報告を求めデータを活用した施策を展開したい。新年度は住宅などの省エネ化、電気自動車購入の際の補助制度を整える予定だ。原発事故の教訓を踏まえた脱炭素社会の実現を図りたい」