「震災語り部」...コロナの影 活動機会が激減、記憶の風化懸念

 
東日本大震災・原子力災害伝承館で開かれている語り部講話。新型コロナの第6波のさなか、来館者の姿はまばらだった=2月25日午後、双葉町

 東日本大震災から11年がたとうとする中、新型コロナウイルスの感染拡大が震災の伝承の取り組みにも影響を与えている。感染拡大とともに語り部活動などのキャンセルが相次ぎ、関係者は記憶の風化を懸念する。

 「震災を経験した住民の生の声を聞き、自分の目で現地の状況を確認する機会がどんどん失われてしまう」。震災の記憶を伝える語り部活動を続けてきたNPO法人富岡町3・11を語る会の青木淑子代表(74)は心配する。

 新型コロナ感染の「第6波」が拡大した今年に入ってから、語り部の機会は激減した。特に2月の語り部活動はわずか1回で、参加者は3人(2月25日現在)のみ。オミクロン株の感染拡大で、講演会や研修ツアーなど10件以上の申し込みがキャンセルとなった。

 新型コロナの感染拡大前は例年、2月から3月にかけて県内外から200~300人の申し込みがあったという。感染対策でオンラインで語り伝える機会も増えてはいるが「思いが伝わっているのか反応が分かりにくい」と話す。コロナ収束の見通しが立たない中、「町の今がより伝わるよう町内を巡るオンラインツアーの開催も検討したい」とコロナ禍でも復興を伝えられる活動の在り方を考えている。

 2020年に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)でも、1月だけで団体客のキャンセルが80組(計3401人)に上った。小林孝副館長は「感染状況が落ち着いていた昨年11月は1万2067人が来館し、月単位で過去最高だった。覚悟はしていたが、ここまで落差があるとは」と話す。

 開館から間もなく1年半を迎える伝承館の累計来館者数は、決して悪くはない。新型コロナの影響を除いた当初試算で年間5万人を見込んでいたが、昨年5月、開館から約7カ月で達成した。来月にも10万人突破が見えている。

 しかし、新型コロナ感染の波が一度高まれば、館内の人けはまばらだ。

 伝承館で語り部として活動する元双葉町職員の熊勝好さん(70)は月3回ほど、避難先のいわき市から伝承館を訪れて講話する。聴講者がゼロで講話を中止することもあるが、「震災の経験を伝えることが私の役割。聴講者が1人のときも、普段とやり方を変えて対話するように講話している」と語る。小林副館長は「足を運ぶ人が少ない今だからこそ、来館者一人一人に中身の濃い対応ができる。震災の記憶と教訓をより深く伝え、口コミを広げてコロナ明けの来館者拡大につなげたい」と前向きだ。