小高の桜、心に残したい 「千本桜プロジェクト」会長・佐藤さん

 
桜の木を見つめる佐藤さん。「小高が東北一の桜の名所になってほしい」と願う

 「小高を少しでも良い町にしたい。それだけなんだ」。南相馬市小高区に千本の桜を植樹する市民団体「おだか千本桜プロジェクト」で会長を務める佐藤宏光さん(67)は桜を見ながら語る。

 小高区は2016(平成28)年7月の避難指示解除から今年で6度目の春を迎える。桜の植樹は小高区のにぎわいや住民同士のつながりを取り戻そうと、15年から始まったプロジェクト。佐藤さんが趣味の釣り仲間と一緒に始めた取り組みだ。

 「一緒に花植えやりませんか」。知り合いに声を掛け合いながら、活動の輪を広げてきた。毎年1、2回のペースで植樹祭を河川敷などで開催。これまでに約1600人のボランティアが参加し、昨年12月には桜の本数は1000本となった。「中途半端に少し植えるくらいでは駄目。いつか忘れ去られてしまい、人の心に残らない。やるなら本気、町のシンボルにしたい」。その思いから目標を1000本に設定した。

 「千本という一つの目標を達成したが、これで終わりではない」。何よりも大事なのは「小高の千本桜」という存在を次世代に引き継ぐことだと思っている。

 小高区の居住人口は3827人(1月31日現在)で震災前の約3割にとどまり、住民帰還の動きは鈍い。高齢者が多く帰還し、自宅にこもりがちな人も増えたように感じている。

 「震災と原発事故は人の心まで壊した」。そう話す佐藤さんが避難生活の影響を感じた出来事があった。避難指示解除を控え、自宅に一時戻った時だった。近くに住んでいた人や顔見知りと気軽に会話したり、あいさつしたりできなくなっていたことだ。

 「震災前はそんなことはなかった。避難生活が長くなり、住民同士の関係が希薄になってしまった」と思い知らされた。地域コミュニティーが引き裂かれた現状を痛感し、必要なのは「心の復興」だと思った。だから植樹を始めた。

 植えているのは河津桜だ。河津桜はほかの品種よりも潮風に強く、早咲きで濃いピンクの花を咲かせるのが特徴だ。少しでも早い時期にきれいな桜を見せたいという思いから選んだ。

 これからも桜の木の枝切りや草刈り、観光地とするための会場整備など、「花咲かおじさん」としてやるべきことは山積みだ。

 「自分たちが一生懸命に汗を流すことで、取り組みを知ってもらい、若い人たちにも地域を盛り上げてほしい。いつか小高が東北一の桜の名所になれば」。佐藤さんは願う。(斎藤駿)

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 【11年間の歩み】東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響を受け、自宅がある南相馬市小高区から同市原町区に避難した。

 2015年4月に市民団体「おだか千本桜プロジェクト」を設立。同年12月には小高区で初の植樹祭を開催した。16年の避難指示解除後は小高区に住まいを戻し、植樹活動を続けてきた。昨年12月に開いた11回目の植樹祭で桜の植樹千本を達成した。