傷ついたピアノ、優しい音 福島大・中谷さん、双葉の伝承館で演奏

 
請戸小にあったピアノで生演奏する中谷さん=双葉町、東日本大震災・原子力災害伝承館

 「震災は、県民の一人として絶対に風化させてはいけない。私は音楽で伝えていく」。福島大4年の中谷仁絵さん(22)=郡山市出身=は、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で、浪江町の請戸小で被災したグランドピアノを響かせた。

 震災当時、中谷さんは小学5年生。親戚のいる福井県で中学2年生の秋まで避難生活を送った。急な引っ越しで新たな環境になかなか慣れず、つらく不安な毎日を過ごした。

 そんな中谷さんを支えてくれたのが、4歳から「何があっても続けてきた」ピアノだった。「ピアノを弾くことで苦しいことも乗り越えることができた」。古里に戻ってきた中谷さんは一層練習に打ち込み、全国的なコンクールで1位を取るまでに成長した。節目の日の演奏依頼を受け、思いを込めて弾くことを決意した。

 一度水に漬かったピアノの鍵盤は重く、少しくぐもった音になる。この日初めてピアノに触れたという中谷さんは「傷ついた心にそっと寄り添うような優しい音色だった」と振り返る。

 将来の夢は、福島で音楽の先生になること。「大好きな福島で、子どもたちのために音楽の素晴らしさを伝えたい」。被災ピアノを演奏した経験を糧に、目標に向かって進む。