いわき・豊間「心つなぐ郵便局」 津波で全壊、新局舎移転再開

 
豊間郵便局を「地域に愛され、誰でもふらっと立ち寄れる郵便局にしたい」と話す遠藤さん=10日午後、いわき市平豊間

 東日本大震災の津波で全壊したいわき市の豊間郵便局が10日、同市豊間地区の移転先で11年ぶりに営業を再開した。局長として再開の日を迎えた遠藤雄三さん(50)は、万感の思いで新しい局舎を見つめていた。手紙だけではなく、住民同士の心をつなぐ施設として「地域の道しるべにしたい」。東日本大震災を経て祖父、そして父に続き親子3世代で豊間郵便局長になった。

 豊間郵便局は戦前、遠藤さんの亡き祖父章さんが特定郵便局として自宅に開設した。戦時中は章さんに代わって祖母のマサさんが郵便局を守り、終戦後は再び章さんが局長に就いた。その後は父庄一郎さんが後を継ぎ、2002(平成14)年まで約38年間にわたり局長を務めた。

 遠藤さんは1997年に日本郵政公社(現日本郵政グループ)に採用。「地元で働きたい」との思いから、祖父や父と同じ道を選んだ。

 いわき市内の郵便局で局長を務め、豊間地区での勤務を希望していた直後、震災が起きた。家族は無事だったが、実家の旧豊間郵便局は津波で全壊した。変わり果てた豊間の街を前に、遠藤さんは震災直後から消防団の一員として行方不明者の捜索に当たった。

 震災から数年、豊間地区での郵便局再開計画を知ると、地元を思う気持ちはより強くなった。そんな中で庄一郎さんと酒を酌み交わし「再開する郵便局での勤務を希望する」と打ち明けた。それを聞いた父は、地域のシンボルである塩屋埼灯台を例えに「灯台のように地域を明るく照らしていけるような郵便局をつくらないといけない」と話した。庄一郎さんは、新たな豊間郵便局を一目見たいと願っていたが、2年前に病気で亡くなった。

 庄一郎さんの思いを胸に、遠藤さんは新しい豊間郵便局を「地域に愛され、誰でもふらっと立ち寄れる郵便局にしたい」と考えている。待合スペースの有効活用や、地域団体と連携したイベントなども模索する。

 4月末からの大型連休中、遠藤さんは営業再開を告知するため、地区の民家など約200軒を歩いて回った。郵便局がない11年間、地元に負担をかけたとの思いから「叱られるのを覚悟していた」と遠藤さん。しかし、住民からは「待っていた」と温かく迎えられた。同時に庄一郎さんを懐かしむ声を聞き、郵便局が地域に根付いていたこと改めて感じた。10日、現地で行われた開局式典。「この地で仕事ができることをうれしく思う」と述べた遠藤さん。「父を超えるのは難しい」と話す一方で、心に誓っていることがある。「『この郵便局が一番』と言ってもらえるような郵便局にしたい」(渡部俊也)

 南に600メートル移転

 豊間郵便局は、旧郵便局から南に約600メートルの県道小名浜四倉線沿いに移転新築した。郵便・荷物、貯金、保険、物販などを取り扱う。営業時間は郵便・物販が平日午前9時~午後5時、貯金・保険は同4時まで。ATMは平日午前8時45分~午後6時、土曜日は午前9時~午後2時まで利用できる。問い合わせは同郵便局(電話0246・88・1700)へ。