野馬追・騎馬行列、大熊に息吹 亡き愛馬「後押し」古里凱旋へ

 
諏訪神社で行列再開と無事の凱旋を祈る小野田さん(手前)=12日午前、大熊町野上

 相双地方の国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追」(23~25日)で、12年ぶりに大熊町で騎馬武者行列を復活させる大熊町騎馬会の会長、小野田淳さん(47)は東京電力福島第1原発事故による避難中、自宅近くの厩舎(きゅうしゃ)で死んだ愛馬や古里への思いを胸に通算24度目の出陣を迎えようとしている。

 小野田さんは今春、大熊町騎馬会のトップに就き、古里での騎馬武者行列の再開に向けて調整を進めてきた。12日は、避難して生活を送るいわき市から町内の諏訪神社を訪れ、無事の古里凱旋(がいせん)を祈った。

 「新たな気持ちで、相馬藩の南のとりでである大熊に新しい野馬追の歴史を築く。復興への希望を町民に届けたい」。神社で決意を新たにした小野田さんには、原発事故で死んだ愛馬への強い思いもある。

 原発事故で自宅から避難する際、厩舎の柵を閉じたまま離れ、小野田さんの帰りを待った愛馬はそのまま餓死していたからだ。「すぐに帰ることができるだろう」との予想と、馬が厩舎外に出た場合のリスクを考えての判断だったが、愛馬が死んだことへの負い目をずっと感じていた。

 「もう馬には乗らない」と決め、野馬追への出場を辞退してきたが、転機は4、5年前。夢に出てきた愛馬の姿がきっかけとなった。「自分のせいで亡くなった馬が夢で頭をすり寄せてきた。『また野馬追に出てもいいよ』と言っているかのようだった」

 避難していたいわき市の復興住宅で見た夢は「俺を許してくれるのか」と心を突き動かして再出陣を決意。2018年には栃木県の牧場から借りた別の馬に乗り、大熊町騎馬会が所属する標葉郷(しねはごう)騎馬会(浪江町、双葉町、大熊町)の一員として出場した。

 今年はずっと思い続けてきた古里での騎馬武者行列の復活という願いがかなう。小学1年の時に初陣を果たし、自宅近くの厩舎では毎日、野馬追に出場するため馬を世話するなど、「野馬追一家」で育ってきており、気持ちは高ぶっている。

 「物心ついた時から出ていたから、野馬追はあって当たり前。年に1度、自らを律する機会なんだ」。小野田さんは古里復興のつち音となるよう、郷土の夏空に、勇ましい馬の足音を響かせるつもりだ。(渡辺晃平)

 7騎が行列参加

 大熊町で再開する騎馬武者行列は「帰り馬行列」とも呼ばれ、南相馬市の雲雀ケ原(ひばりがはら)祭場地で戦いを繰り広げた後、地元に凱旋し、戦果を報告する。24日午後4時から同町大川原地区の町役場を発着点に、町役場前の道路約1.5キロを約20分かけて往復する。7騎が隊列を組む予定だ。