町役場、双葉帰還の先陣 新庁舎開庁式、9月5日から業務開始

 
双葉町役場新庁舎の開庁を祝ってテープカットする関係者=27日正午、双葉町

 東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く双葉町は27日、町役場新庁舎の開庁式を双葉町長塚の現地で行った。町は原発事故後、避難に伴い役場機能を川俣町、埼玉県のさいたまスーパーアリーナ、同県加須市の旧騎西(きさい)高、現在のいわき市へと移してきた経緯がある。新庁舎での業務開始は9月5日を予定しており、関係者が双葉町のさらなる復興の進展を誓い合った。

 式には秋葉賢也復興相ら政府関係者、内堀雅雄知事、双葉郡の首長、地元の行政区長らが出席した。伊沢史朗町長は式辞で「震災と原発事故から12年目を迎え、ようやく役場の行政機能を町内に戻すことができる」と述べ、これまでの地域再生の道のりを振り返った。

 伊沢町長は町内の帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が今月30日に解除されることに触れ「新庁舎が町民に親しまれ、多くの方々との交流が深められるまちづくりの拠点となるよう努める」と決意を述べた。

 続いて特産品の「双葉ダルマ」に目を描き入れた。町役場では1月の仕事始めの時に双葉ダルマの向かって右の目を描き入れ、年末の仕事納めの際に一年の無事を感謝して左の目を描き入れることを続けてきた。

 今回用いたのは、東日本大震災前の2011(平成23)年1月に右目が描き入れられたが、同3月からの避難により旧町役場の応接室に11年5カ月の間、保管されたままになっていた双葉ダルマだ。

 伊沢町長が筆を執り、復興への思いを込めて左目を描き入れると、参加者から大きな拍手が送られた。

 新庁舎前で関係者によるテープカット、地元の標葉(しねは)せんだん太鼓保存会による力強い太鼓演奏も行われ、町の復興、再生に向けた新たな拠点の完成を祝った。

 新庁舎は軽量鉄骨造り2階建てで、JR双葉駅前に立地。省エネやバリアフリーに配慮した造りで、役場閉庁日でも住民が利用できるスペースを設けた。

 町長、込み上げる思い

 「最後に、全国の双葉町の復興を信じて、支援をしていただいた全ての皆さまに感謝と御礼を申し上げます」。双葉町役場新庁舎開庁式の式辞の最終盤、伊沢史朗町長の声が感情を抑えるかのように、わずかに詰まった。この一節は当初の文案にはなく、町長自らが付け加えた部分だった。

 2013(平成25)年3月の町長就任から、警戒区域の再編や中間貯蔵施設の建設受け入れ判断など、常にぎりぎりの選択を迫られてきた。全町避難を経て、ようやく町内に役場機能を戻すと宣言できる節目の日。お礼を述べようとした際、走馬灯のように、これまでの苦労やうれしかったことが脳裏をよぎったという。復興政策を巡り政府が舌を巻く"タフな交渉人"も、込み上げる思いに心が揺れることを禁じ得なかった。

 式後、報道陣の取材では「震災と原発事故から11年5カ月。当時はこの日が来るとは正直思っていませんでした」と心の内を明かした。今月30日には復興拠点の避難指示解除を迎える。

 「帰りたいという思いを強くしながら亡くなられた方が、大勢います。そういった人たちの思いをわれわれは忘れることなく、しっかりと町の復興に取り組んでいきたい」とも語った。

 会見後しばらくして職員を集め「緩むことなく、さらなる復興を」と訓示した口調からは今後も困難に直面する首長の強い覚悟がにじんでいた。(菅野篤司)

 いわき事務所は支所に

 新庁舎の開庁に伴い、双葉町役場の主要機能は9月5日から、いわき市東田町2丁目の「いわき事務所」から双葉町内に移転する。

 ただ、新庁舎の開庁後もいわき事務所は「いわき支所」に改称して窓口機能を残し、戸籍や税務などの証明書交付、福祉、年金などの相談を受け付ける。

 新庁舎には職員約100人が勤務し、いわき支所には約20人が勤務する体制に移行する。郡山支所や埼玉支所、南相馬連絡所、つくば連絡所の業務内容に変更はない。