「お試し住宅」移住へ好評 富岡で開所半年、物件の拡充が急務

 
利用者にお試し住宅を案内する辺見さん(左)。「利用者に合わせた支援を継続していきたい」と話す

 富岡町が移住促進の拠点として町中心部に整備した短期宿泊用の「お試し住宅」が、開所から半年余りが経過した。これまで延べ8件(10月上旬時点)の利用があり、利用者からは「富岡で生活するイメージを持ちやすい」と好評を得ている。一方で「移住したくても住む場所がない」などの問題を指摘する声もあり、移住を促進するには住宅の確保が課題となりそうだ。

 「住みやすく、サポートも充実している」。今月上旬にお試し住宅を利用した仙台市の60代男性は印象を明かす。男性は復興支援を目的に本県で農業や福祉に携わることを希望している。お試し住宅はオンラインでの予約が可能で「気軽に利用できるから助かる。窓口が一本化していることがありがたい」と話す。

 子育て世帯の利用もあった。埼玉県深谷市の40代女性は中学生を含む家族4人で利用し、町内の小中学校を見学した。校長と会話する機会もあり「引っ越し前に学校の雰囲気を知れたのは良かった。子どもの心配も解消できた」と声を弾ませた。

 お試し住宅の運営会社で移住相談担当を務める辺見珠美さん(33)は「移住希望者が一定数いることが分かった。これからも利用者に合わせた支援を継続していきたい」と話す。買い物面など生活環境の不便さを指摘する声はそれほど多くないという。

  多くは単身者向け ただ、利用者が実際に移住するまでには至っていないのが現状だ。利用者が最も懸念しているのが、移住後に住む場所が少ないこと。辺見さんによると、町内には東京電力福島第1原発の廃炉に携わる作業員などを見越して、単身者向けのアパートが多いという。アパートも町の大部分で避難指示が解除された2017年以降に建設されたものが多く、建築年数が浅いことなどから、家賃の相場も高めだ。

 家族で住める一軒家は東日本大震災と原発事故の影響で解体しているケースが多く、空き物件が少ない。深谷市の女性は「家族で住める家を見つけるのが大変」と話す。利用者の中には住む場所を確保できず、移住につながらなかったケースもあったという。辺見さんは「せっかく移住希望者がいるのにもったいない」と漏らす。

 移住促進は全国の自治体が取り組んでいて、高知県檮原町(ゆすはらちょう)では町が家主から空き家を借り、移住希望者に格安で貸し出すサービスを実施している。辺見さんはほかの自治体の施策も参考にしつつ「富岡の魅力を最大限生かした取り組みがあればいい」と話す。(三沢誠)

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 お試し住宅 富岡町の現状を知ってもらい、移住促進につなげようと今年3月中旬に開所した。かつて写真館・住宅だった建物を町が整備し、委託を受けたまちづくり会社「とみおかプラス」が運営する。建物は2階建てで2LDK。約10畳と約15畳の2室があり、無料で最大4泊5日の利用が可能。期間中は専門の支援員がサポートするほか、希望する職場や小中学校の見学ができるプログラムもある。