町民とつなぐ「震災伝承」 楢葉町、企画を通し「自分ごとに」

 
岩手県の伝承館で津波被害の状況などについて説明を聞き、防災意識を高めた学習ツアーの参加者=10月

 楢葉町は、東日本大震災の教訓を伝承して地域の防災力を高める取り組みを進めている。東京電力福島第1原発事故による全町避難の経験があまりにも印象深かったため、沿岸部で津波被害があったにもかかわらず、町民の間で自然災害への意識が十分に共有されていないことが背景にある。町は来年3月11日を一つの節目として重層的な対策を講じていく考えだ。

 取り組みの開始には、震災から11年半余りが過ぎる中で記憶が風化している現状も反映されている。町は今年7月と10月、町民を対象に1泊2日で岩手、宮城両県の震災関連施設を巡る学習ツアーを企画した。津波被害の惨状や教訓を聞いた参加者からは「人ごとではなく、自分ごととして考えたい」との声が上がった。

 町は、学習ツアーが沿岸部と内陸部の町民の意識の差を埋める効果があったと評価。町民全体に広げるため、来年3月11日に開催予定の災害伝承イベント「3・11・つなぐ・未来(仮称)」で津波被害を受けた地区の町民と学習ツアーの参加者によるパネル討論を企画する考えだ。事前に町内の小学生と保護者に浪江町の震災遺構・請戸小を視察してもらい、感想を発表してもらうことも計画している。

 震災後に入庁した職員が増える中、役場内での教訓の伝承も課題だ。町は今年2月、震災対応を経験した職員やOBを招いて話を聞く「役場語り部」の取り組みを始めた。来年2月にもOBを招いた会合を開き、若手職員を中心に災害時に必要な心構えなどを学ぶ。

 これらの成果を踏まえ、職員が町独自の防災教育の副読本を作成する。副読本は来年度から、小学校の授業で活用される予定だ。

 町は、条例で3月11日を「防災と伝承の日」と定めている。くらし安全対策課は「11年前の教訓を今、防災対策につなげていかないと、何のための経験だったのかということになる」と町民と一体となった記憶と教訓の伝承へ力を入れる。