復興に「新しい芽」 種まく移住者や若者、斬新なアイデアで挑戦

 
「視点を変えれば雑草にも利用価値がある。『シャンペトルグラス』という名を広め事業を軌道に乗せたい」と話す小原さん(写真左)「地域に貢献したい」と話す渡辺さん

 東京電力福島第1原発事故の被災地で、復興に向けた"新しい芽"が育っている。春には帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除が予定されるなど、また一つ復興の段階が進もうとする中、移住者や若者が斬新なアイデアで新たな挑戦を始めている。

 雑草「飯舘の宝」に 首都圏から農家、小原さん事業化

 「雑草も視点を変えれば自然の宝。事業モデルを確立させ、将来的には村の発展につながる事業に育てたい」。飯舘村の花卉(かき)農家小原健太さん(44)は、田畑の"厄介者"の雑草を商品に変えようとしている。自生する雑草や山野草を乾燥させ、花材として販売する新事業だ。

 首都圏から移住し、トルコギキョウ栽培に本腰を入れていたおととしの夏、刈ってもすぐに生える雑草に悪戦苦闘していた。営業マンから転身した小原さんには大きな負担だった。「この雑草をどうにかできないものか」

 頭に浮かんだのが徳島県上勝(かみかつ)町で生まれた「葉っぱビジネス」だ。日本料理などで食材を彩る「つまもの」を栽培し、販売する。高齢者や女性も取り組みやすく、過疎の町を再生させた取り組みとして注目を集めていた。

 「これを生かせるんじゃないか」。早速、村内に自生するススキやナズナ、エノコログサなどを使って試作を始めた。「自生する雑草なら管理の手間も省けて環境にも優しい」。昨年11月には、村内で開かれたドライフラワー飾り作りの教室に試作品を含む花材を提供。参加者が花材を使い壁飾りを作り上げる様子に手応えを感じた。「(花材として)しっかり使えますよ」。教室の講師からの言葉が自信につながった。

 雑草や山野草で作った花材は「シャンペトルグラス」という商品名で販売する。シャンペトルはフランス語で「田舎風」という意味で、牧歌的な飯舘村らしさを表現した。村民に摘んでもらったものを買い取る予定で、村の支援も受けて今夏ごろには試験販売を始める計画だ。「取り組みを通じ雇用を生むことも大事な要素。ストーリー性も含め、雑草で作った花材の価値を広く発信していきたい」

 「富岡の花酵母」で酒開発 須賀川出身の22歳・渡辺さん

 須賀川市出身の渡辺優翔さん(22)は、家業の手伝いで「富岡町つつじ再生プロジェクト」に加わった縁で2022年、同町に新会社「Ichido(いちど)」を設立、花から採取した「花酵母」を使い酒の開発に取り組んでいる。「花への愛情が強い富岡の地で、酒造りを通して復興に貢献したい」と意気込む。

 実家は、須賀川市で300年以上続く観光庭園「大桑原つつじ園」。幼少期からツツジやシャクナゲに囲まれて育った。しかし、花を扱う業者の数や花卉(かき)の売り上げが年々減る現状に危機感を覚えていたという。「自分が花卉業界でできることは」と考えていた21年ごろ、友人の紹介で出合ったのが花酵母だった。散りかけの花から採取され、種類や場所によってさまざまな香味を醸し出す。「廃棄される花から酒を造れば生産者にも貢献できる」。商品開発に乗り出した。

 現在は実家のツツジから採取した酵母を使った日本酒やジンなどを開発中で、まずは3月ごろに予定するクラウドファンディングの返礼品を目指す。渡辺さんは「今後は、富岡のサクラやバラの酵母で商品化を目指したい」と力を込める。