「処理水」復興...次の段階に 海洋放出、今春ごろ開始

 
海底トンネルを掘り進めている大型の掘削機器「シールドマシン」。東電によると、第1原発の護岸から約800メートルの地点に達している(代表撮影)

 3月11日で東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から丸12年となる。今春をめどに帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除されるほか、浪江町には福島国際研究教育機構が設立されるなど、復興は次の段階に前進する見通しだ。一方、第1原発でたまり続ける処理水を巡っては、政府と東電が海洋放出を計画しており、本県は新たな難題を抱える。今年の復興政策を展望する。

 東京電力福島第1原発で増え続けている処理水を巡り、政府と東電は今春ごろから海洋放出を始める方針だ。東電は第1原発周辺で関連設備を着実に整備する一方、海洋放出後に風評被害が生じた場合の賠償基準を取りまとめ、地ならしへと突き進む。だが、風評を懸念する県民をはじめ、国内外で十分な理解は得られておらず、実行への道のりは険しいままだ。

 東電は、第1原発敷地内から約1キロ先の沖合まで海底トンネルを掘り、基準値を下回るまで海水で薄めた処理水を海に流す計画だ。既に海底トンネルは岸壁から約800メートルの地点まで掘削され、放水口の設置も進む。

 安全対策では、政府が海水中の放射性物質濃度のモニタリング(監視)体制を強化し、トリチウムなどの測定地点や頻度を増やす。東電も放出前の処理水に含まれる放射性物質濃度について、トリチウム以外に選定した29核種を測定する方針を示し、原子力規制委員会の審査を受けている。

 一方、風評被害が出た場合の損害賠償を巡っては、東電が昨年12月に公表した賠償基準で、農業、水産業、観光業について統計データを用いて風評の有無を確認するとした。これまで被害者が風評被害を証明する必要があり、被害者の負担軽減が図られる利点がある。

 ただ、県原子力損害対策協議会の構成団体は「賠償額に格差が生じ、賠償範囲が限定的になってしまう」と懸念する。東電が被害の実態に即した賠償に応じるかどうかが焦点となる。

 政府は、風評対策として情報発信を強化するほか、基金を設け、影響が大きい漁業者への支援を手厚くする方針だが、県漁連や全漁連は海洋放出に反対の立場を堅持している。