助けたい、「あの時」の分も 「夢は看護師」祖父母らに誓う

 
自宅があった白河市葉ノ木平地区を訪れた酒井さん。フェンスの向こう側に、大規模な土砂崩れを起こした山があった

 酒井美緒さん 20 白河市

 泣きながら土砂をかき分けることしかできなかった。大規模な土砂崩れで、13人が犠牲となった白河市葉ノ木平地区。小学2年生だった酒井美緒さん(20)はあの日、土砂にのみ込まれた自宅の前で、同居の祖父母と叔父を必死に捜した。

 当時、酒井さんの両親は共働きで、祖父母が親のように、叔父は兄のように接してくれた。お酒が好きでいつもニコニコしていた祖父一男さん=当時(67)。祖母貴美子さん=同(65)は、足が悪いのに下校時にいつも迎えに来てくれた。叔父昌弘さん=同(37)=は、家で留守番していると一緒に遊んでくれた。3人とも、酒井さんにとってかけがえのない家族だった。

 2011(平成23)年3月11日、午後2時46分。酒井さんは学校で授業を受けていた。「下から突き上げるような揺れを感じ、怖くて泣いてしまった」。揺れが落ち着いた後、学校に迎えに来た母一枝さんが言った。「土砂にのみ込まれて、家がなくなった。おばあちゃんたちもいない」

 家に帰ると、いつもの景色が一変していた。慣れ親しんだ家、たくさん遊んだ庭、散歩コースの道―。全てが土砂にのみ込まれた。

 「助けてあげられなくてごめん」。近所の人から声をかけられたが、パニック状態になっていた酒井さんは「なんで助けてくれないの」と怒鳴り返してしまったという。「あの時、家族を助けられなかったことが本当に悔しかった」

 大災害で家族3人を失い、「誰かを助けられる存在になりたい」という思いが芽生えた。小学6年の頃には看護師を志すようになった。勉強に励み、現在は白河厚生総合病院付属高等看護学院で学ぶ。「次に災害が起きた時は、私が看護師として誰かを助ける」。泣くことしかできず、無力感にさいなまれたあの日の経験を原動力に、努力を重ねる。

 間もなく12年。いつも優しく接してくれた3人の家族に、心の中で語りかける。「当時はわがままばかり言ったけど、人に頼られる看護師になるという夢に少しずつ近づいているよ。ずっと、応援していてね」(伊藤大樹)

 【12年の歩み】

 2018(平成30)年に光南高に入学。「患者や医療従事者に笑顔を届けたい」との思いから、授業の一環でドライフラワーの制作に取り組んだ。作ったドライフラワーを白河市内の福祉施設などに贈る取り組みを続け、全国高校生体験活動顕彰制度「地域探究プログラム」の全国ステージで、個人部門2位を獲得した。21年に白河厚生総合病院付属高等看護学院に進学。24年の国家試験合格に向けて勉強に励む。