双葉で輝け「海ぶどう」 古里で養殖、請戸の海水使い安全発信

 
双葉町で海ぶどうを養殖する勝山さん。「福島の安全と安心を発信していく」と語る

 双葉・土木業 勝山広幸さん

 古里を明るく照らす産品にしようと、目を輝かせている。双葉町の勝山広幸さん(54)は、磯の香りとプチプチとした食感が特徴の海藻「海ぶどう」の養殖を手がけ出した。東京電力福島第1原発事故からの復興が進む被災地で、海ぶどうに古里再生への希望を託している。

 勝山さんは創業41年を迎える町内の土木工事業「勝山工業」の社長だ。東日本大震災前までは町発注の公共工事や第1原発構内の工事などに携わった。震災後は原発事故に伴う家屋解体や除染も手がけ、地域の復興事業に取り組む。

 「土木会社が海ぶどうを養殖するなんて。その意外性に驚かれるよ」。そう笑うが「海ぶどうの養殖も復興事業の一つなんだ」と語る。きっかけは、福島第1原発から出る処理水の海洋放出方針を巡る問題だった。

 処理水の安全性に関する情報発信は政府や東電が主導的に担う一方、地域に育てられた地元企業がその役割を手伝うことで、「安全」から「安心」につながるのではないかと考えた。

 「海水を使って風評を払拭する事業はできないか」。社内で検討する中、従業員から「海ぶどうを育てるのはどうか」との声が上がった。海ぶどうのほとんどは水分でできている。「それは面白いかもしれない」

 社内には沖縄育ちの従業員と、前職で海ぶどう栽培の経験がある従業員がいた。勝山さんは昨春、町内の前田地区にある社有地にプレハブの養殖施設を設け、養殖試験に乗り出した。

 海ぶどうは主に熱帯地域に生息する海藻の一種で、沖縄県で養殖が盛んに行われている。東北地方の寒冷な気候条件の中での挑戦となったが、気温と水温を25度前後に保ち、太陽光の代わりに発光ダイオード(LED)の光を当てて養殖を始めた。

 海水は隣町の浪江町の請戸漁港からくみ上げて利用している。放射性物質の検査で安全性を証明した海水だ。試行錯誤を重ね、1カ月間に10キロの海ぶどうを安定生産できるようになり、養殖試験は成功した。

 今年1月、双葉町内で12年ぶりに開催された「双葉町ダルマ市」で、初めて町民らに海ぶどうを味わってもらった。沖縄の郷土料理「ソーキそば」に海ぶどうを添えて販売すると、準備した200食がすぐに完売。多くの反響に自信を深めた。

 今後は生産規模を現在の10倍に広げ、町に帰還した高齢者らが短時間でも働けるような環境づくりを目指す。政府が今年春から夏ごろに処理水の海洋放出を見込む中、勝山さんは「海ぶどうを通じて、双葉から福島の安全と安心を発信していく」との思いを込める。(渡辺晃平)

 【12年の歩み】

 東京電力福島第1原発事故による全町避難で双葉町が一時的に役場機能を設けた埼玉県加須市に避難した。会社はいわき市に仮設事務所を設けて事業を続けた。2021年春には、双葉町の中野地区復興産業拠点に事務所を新設、地元で事業を再開した。勝山さんは現在、加須市と浪江町に生活拠点を置き、復興事業に取り組む。