処理水放出「国、東電が不安払拭を」 福島県漁連・野崎会長に聞く

 
「沿岸漁業はここから離れてはできない。処理水の海洋放出には反対だ」と改めて反対の立ち位置を語る野崎会長

 福島県漁連の野崎哲会長は7日、いわき市で福島民友新聞社のインタビューに応じ、東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針に改めて反対の立場を表明した上で「現場の漁業者は不安を抱えている。責任のある国、東電が不安を払拭するべきだ」と語り、政府と東電に責任を果たすよう求めた。政府と県漁連が交わした「関係者の理解なしに(処理水の)いかなる処分も行わない」との約束について「履行されていないと思っている」との認識を示した。(聞き手・小名浜支局 矢島琢也)

 ―政府が処理水の海洋放出を始める時期を「今年春から夏ごろ」と見込んでいる。現状をどう見るか。
 「反対の立ち位置は変わらない。一番の理由は、沿岸漁業は福島の海を離れては続けられないからだ。福島の水産業は復興の過程にあり、何らかの負の作用が働くことが心配だ」

 ―どのような状況でも反対の旗は降ろさないのか。
 「(反対を取り)下げることはない。その中で今、国、東電の責任で(海洋放出計画を)進めようとしており、責任の所在を明確にしたい。自分たちの生活の場で起こることなので(計画の)中身は理解しておきたいとは思っており、漁業者も(政府や東電の)説明は十分に聞いてほしい」

 ―県漁連は2015年、第1原発周辺の井戸「サブドレン」からくみ上げた地下水を浄化して海に流す計画を受け入れた際、政府と「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」との約束を交わした。現状の認識は。
 「約束が履行されていないと思っている。これが反対の理由の大きな柱だ。サブドレン計画の時は、われわれ(執行部)は受け入れざるを得ないと思い、反対する漁業者を説得するという立ち位置だった。県内の漁業者にも了解してもらうには、溶け落ちた核燃料(デブリ)に(一度でも)触れた水(の海洋放出)は駄目だと。そこが最大限の譲歩だ。この事実への全国的な理解が足りていないと思っている。国と東電は廃炉を進めることを前提にしながら、国民的理解を醸成するべきだ」

 ―国民的理解とはどういうことか。
 「『了解』と『理解』は違う。自分は『仕組みをよく分かってほしい』という立場にいる。壊れた原発を廃炉にせず、そのままにしていいのか。あの事故は、東京圏へ電気を送るためにあった施設で起きた。それをよく考えてほしい」

 ―県境を越えると同じ漁業者にも温度差があるが。
 「福島(県漁連)は月1回、東電から(第1原発の現状の)説明を受けており、11年の蓄積がある。われわれはサブドレン計画を経験したが、茨城、宮城両県などの漁業者は初めて当事者となった。福島の漁業者も(放出)間際になったら、他県と同様に不安は高まると思う。責任のある国、東電が不安を払拭するべきだ」

 ―第1原発がある大熊、双葉両町は処理水の早期処分を求めている。廃炉への考えは。
 「(『陸上保管の継続は問題の先送り』という)両町長の発言は分からないことはない。さまざまな考え方があって進むのが現実的な廃炉であり、それを含めて国、東電の責任で進めてもらいたい」

 ―首都圏の市場などからは漁獲量の拡大を求める声が上がっている。漁業再生への取り組みは。
 「出荷制限された本県沖の魚種が1桁になった18年ごろまでは、実質的な風評被害があった。固定的な拒否反応が一定の割合を下回って以降、生産拡大を進めてきた。検査体制を確立しているが、本格操業で漁獲量が増えれば何が起きるか読み切れていない。消費者の安心を得るにはモニタリング(監視)しかない。行政に徹底を求めていく」

 のざき・てつ いわき市出身。青山学院大を中退し、家業の水産会社「酢屋商店」を継ぐ。2010(平成22)年7月から県漁連会長。68歳。