放出時期、自ら決断 岸田首相インタビュー、風評対策主導を強調

 
処理水の海洋放出の開始について「総理大臣として判断しなければならない」と語る岸田首相=8日午後、官邸(代表撮影)

 岸田文雄首相は8日、東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を始める時期について「総理大臣として判断しなければならない」と述べた。政府が今年春から夏ごろと見込む海洋放出までに国民の十分な理解が得られるかどうかは不透明で、最終的に首相として開始時期を政治決断するとみられる。放出に伴う風評対策についても「関係省庁にしっかりと取り組みを続けてもらうよう指示を出し続ける」とリーダーシップを発揮する考えを強調した。

 東日本大震災と原発事故から12年となるのを前に、福島民友新聞社など被災3県の地方紙4紙による合同取材に応じた。

 岸田氏は、海洋放出について「福島第1原発の廃炉を着実に進め、福島の復興を実現するために処理水の処分は決して先送りできない課題」と断言した。2021年4月に海洋放出方針を決定して以降、国民の理解醸成に向け千回以上にわたり説明会や意見交換会を開催したほか、情報発信を含む風評対策の強化に取り組んだと強調。22年度第2次補正予算案で創設した漁業継続を支援するための500億円の基金については「全漁連会長から『(政府による)漁業者との信頼関係構築に向けての姿勢』との談話が示された」とし、一定の評価を得たとの認識を示した。

 一方、福島民友新聞社を含む全国16の地方紙が震災から12年を迎えるのを前に実施したアンケートでは、海洋放出について「賛成」「やむを得ない」が合わせて45.2%、「できればやめてほしい」「反対」が48.4%で、賛否が割れた。

 岸田氏は、海洋放出に対する不安の払拭に向け「科学的な見地からの冷静な説明と、多くの理解につながるような内容の濃い説明の両方が求められる」と指摘。今後も漁業関係者らの理解を得るために「地元に足しげく通い丁寧な説明を重ねていく」とした。

 ただ、放出開始の時期を決断する際の基準については「(理解醸成の)具体的な数値的な目標があるとは承知していない。さまざまな(判断)材料をしっかり確認しながら総合的に判断する」と述べるにとどめた。

 避難解除、再生へ責任

 また、岸田文雄首相はインタビューで、東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域の再生について「将来的に全ての避難指示を解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意が揺らぐことはない」と述べ、一日も早い住民帰還の実現に取り組む考えを示した。4月1日に浪江町に設立する福島国際研究教育機構の研究開発事業については「できる限り早期に成果を得られるよう最大限努力する」と強調した。インタビューは、福島民友新聞社の小野広司編集局長ら東日本大震災の被災3県の地方紙4紙による合同で行われた。

 ―東日本大震災と原発事故から12年となる。被災地の課題にどう向き合っていくのか。
 「震災からの復興は当然ながら岸田政権の最重要課題の一つだ。原子力災害の被災地の本格的な復興・再生に向けては引き続き中長期的な取り組みが必要で、(2023年度)税制改正大綱では息の長い取り組みを支援できるよう確実に復興財源を確保するとの内容を盛り込んだ。必要な復興事業について予算の確保を含めて国が前面に立ち、責任を持って取り組む」

 ―帰還困難区域の再生に向け、環境整備や産業再生をどう進めるのか。
 「昨年は葛尾、大熊、双葉3町村で順次、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された。浪江町は31日に解除を予定し、残る富岡町と飯舘村は今春の解除を目指している。地元の声を丁寧に聞きながら医療や介護、教育、買い物など住民が帰還できる環境整備や産業再生を支援する」

 ―復興拠点以外の再生に向けた対応は。
 「拠点外についても『古里に帰りたい』という切実な思いを持つ住民が帰還できるよう、避難指示解除に向けた取り組みを進める。今国会で(拠点外の避難指示解除に向け)福島復興再生特別措置法の改正案の早期成立を図り、帰還意向のある住民の一日も早い帰還を目指す。将来的に帰還困難区域の全ての避難指示を解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意が揺らぐことはない。現場主義を徹底し、被災者に寄り添いながら復興・再生に取り組む」

 ―福島第1原発で発生する処理水の海洋放出を巡り、関係者の理解をどう得ていくのか。
 「廃炉を着実に進め、福島の復興を実現するために処理水の処分は決して先送りできない課題だ。(海洋放出の)方針を決定して以降、安全性の確保や風評対策に関し千回以上の説明や意見交換を実施した。テレビや新聞広告などで情報を発信し、漁業継続を支援するための基金の創設を補正予算で措置した。漁業者の意見や要望に真摯(しんし)に対応し、引き続き政府を挙げて安全性の確保と風評対策の徹底に取り組む。(放出開始時期については)私自身、総理大臣として判断しなければならない」

 ―福島国際研究教育機構の研究開発を巡り、早期の産業化を望む被災地の住民の声にどう応えていくか。
 「被災地で世界の課題の解決に資する研究開発を推進し、研究成果を新たな産業の創出につなげることで東北の復興を前進させる。令和5(23)年度から11(29)年度の事業規模は1千億円程度と見込み、組織の基盤づくりに重点を置きながら、まずは外部委託により研究開発事業を早期に立ち上げる。数百人程度の研究者を確保し、活動が本格化する令和12(30)年度以降を見据え早期に成果が得られるよう最大限努力していく。市町村ごとの座談会などを開催し、具体的なニーズを把握したい」