花々で小高を明るく 銀行員から農家転身の夫婦、直売店にも挑戦

 
ラナンキュラスを手に「小高は花を育てるのに最適な場所」と話す沙奈さん(左)と直樹さん

 南相馬・花農家 菊地直樹さん、沙奈さん

 南相馬市小高区に、銀行員から花農家に転身した夫婦が営む花の直売店がある。菊地直樹さん(29)、沙奈さん(30)夫妻が開店した店だ。店内には、栽培法などについて来店者と会話する声が響き、東京電力福島第1原発事故の影響で人口が大幅に減った地域を明るく包んでいる。

 小高区は原発事故で避難区域となり、人口が震災前の約3割にまで落ち込み、多くの耕作放棄地も生まれた。県内出身の2人は2019年に移住すると、県外に避難した野菜農家の農地を借り、花の栽培を始めた。現在はハウス17棟で約10種類の花を育て、県内をはじめ東京都、仙台市の各市場に出荷している。

 20年には直売所の生花店「hinataba(ヒナタバ)」も始めた。元々は野菜の直売所として使っていた建物を修理して開店。摘みたての生花やドライフラワーを売り出した。

 生花店を営むのは2人にとって挑戦だ。「市場メインだった花の業界が変わりつつある。首都圏を中心に、生産者が直接売る流れができている」。生花店は一般的に市場から花を仕入れるため、直売店は珍しく、新たな業態は2人にとって発見が多い毎日だ。

 その挑戦も地域住民との交流で日々のエネルギーに変えている。沙奈さんは「自分で育てた花をその場で買ってもらい、お客さんの喜ぶ姿を見るのがうれしい」と笑顔を見せる。直樹さんも「『買った花の茎が折れてしまった』など直接教えてもらえることで、すぐに栽培法を見直すことができる」と前向きに捉えている。

 直樹さんは銀行を退職して昭和村で花栽培の修業を始め、沙奈さんも直樹さんを支えるために数年後に同じ銀行を退職。その後、新たな人生を送る場所として小高区を選んだ。

 それから4年が過ぎ、2人は「小高区は気候はもちろん、人の温かさもある。移住者にとっても魅力的な場所」と大好きな土地になった。だからこそ「被災地を特別視せず、普通の暮らしがあることを知ってほしい」と願っている。

 そしてラナンキュラスなどの栽培に取り組む今、2人は「この土地で、純粋に花づくりを頑張っている自分たちを知ってもらえれば」との思いを胸に、花と向き合う日々を送る。(坪倉淳子)

 【12年の歩み】

 2人は2016年に県内の地方銀行に入行し、出会った。直樹さんは18年に退職し、昭和村でカスミソウを通じた花栽培の技術を学び始めた。2人は19年に南相馬市小高区に移住、20年に結婚した。現在は小高区に住みながら、昭和村でカスミソウ栽培にも取り組んでいる。