双葉郡3分の1は移住者ら 開沼氏ら調査、大半が「生活満足」

 

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が解除された双葉郡8町村に暮らす人のうち、約3分の1が移住者や仕事などでの長期滞在者であることが9日、東日本大震災・原子力災害伝承館と東京大の共同調査で分かった。原発事故を受け国などが行ってきた調査では把握できなかった双葉郡内の移住者らの居住実態が初めて判明。伝承館と東大による研究チームは、帰還者と移住者それぞれの視点を踏まえたまちづくりの在り方を探る必要性がある、としている。残る約3分の2は帰還者だった。

 調査した伝承館上級研究員の開沼博東大大学院准教授は「震災と原発事故から12年が経過し、古里へ戻る、戻らないといった二項対立的な前提で避難指示地域を語ることは、かえって被災地の課題が見えにくくなる」と指摘。「(移住者ら)『新住民』を含めた地域づくりを進めることが地域の魅力向上や帰還者の生活上の満足にもつながる」と提言した。

 調査では、生活上の満足度も聞き、回答者の7割以上が「今後も現在の居住地で暮らしたい」とした。また全体の約6割が職場への通勤時間が20分未満と答えており、研究チームは、職場と住居が近いライフスタイルや、人間関係が安定している点が満足感の向上につながっているとみている。

 開沼氏は「(被災地は)不便さが強調されがちだが、決して住みにくいわけではないということだ。地域に愛着を持ち、被災地で未来を見据えた生活設計を行っている姿が見て取れる」と分析した。

 浪江、双葉、大熊、富岡、楢葉、広野、川内、葛尾の8町村に現在暮らす人を対象にした初の調査で、国が定期的に行っている震災と原発事故当時に居住していた住民を対象とした調査とは異なる。昨年3月31日~5月31日に行い、計9989戸に調査票を配り、1565件から回答を得た。

 除染土「早期に県外」7割

 東日本大震災・原子力災害伝承館と東京大が双葉郡8町村で現在暮らす人を対象に行った調査では、生活上の不安についても尋ねた。県内の除染で出た土壌を保管する中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)から早期の県外搬出を望む住民が約7割に達し、県外最終処分に向けた明確な道筋が示されていない中、早期の問題解決を求める声が多数を占めた。

 調査では、居住地での生活状況に関して除染で出た土壌の県外最終処分の早期解決を望むかどうかを質問した。41.4%が「そう思う」、29.5%が「ある程度そう思う」と回答、早期の県外最終処分を望む割合が計70.9%となった。このほか東京電力福島第1原発の廃炉について52.1%が不安に感じているとし、日常の防災や防犯については51.4%が不安と答えた。

 県内の除染で出た土壌を巡っては、中間貯蔵施設で2015年3月から保管が始まり、45年までの県外最終処分が法制化されている。伝承館上級研究員の開沼博東大大学院准教授は、約7割が早期の県外最終処分を望んでいる点について「双葉郡で暮らす住民の感覚が明らかになった」と分析した上で、中間貯蔵施設の問題が「復興への課題の象徴になっている」と指摘した。

 また居住地の利便性に関する質問で、娯楽や芸術・教養、教育環境のほか、医療機関や外食などで震災、原発事故前と比べて不便さを感じている住民が多いことが判明したという。

除染で出た土壌などの県外最終処分