「夢の苗木」...大熊で育て 仏出身・エミリーさん、移住し農業

 
木イチゴの苗木を育てるエミリーさん。「原発事故のマイナスイメージを払拭したい」と語る=大熊町

 フランス出身のイラストレーター、ブケ南口(なんこう)エミリーさん(34)はいわき市から大熊町に今年2月に移住した。今春からは東京電力福島第1原発事故で使われなくなった農地を借り、木イチゴや野菜などを育てる農業を始める。将来は観光農園を開く夢を抱いており、「農業を通じて原発事故のマイナスイメージを払拭したい」と笑顔を見せる。

 来日は12年前。日本人の友達ができたことがきっかけとなり、2011年4月に東京で暮らし始めた。語学講師として働く中で、生徒の一人が福島市出身だったことから本県に興味を持った。18年に観光で会津地方を訪れ、裏磐梯の五色沼や下郷町の大内宿などを巡った。目の前に広がる美しい風景に心を奪われ、「赤べこに恋した」という。「福島は私の居場所だ」。21年2月に本県に移り住んだ。

 双葉郡には21年3月に初めて訪れ、震災と原発事故による被害の爪痕が生々しく残る印象があった一方、自然の豊かさに魅了された。フランス西部の田園地帯に生まれ、幼少期には種から野菜や花を大事に育てていた楽しい記憶がよみがえり「いつかここで農業がしてみたい」と、新しい夢が芽生えた。

 本県を訪れる前までは、福島は原発事故の印象が強く、良いイメージがなかった。でも今は、福島の全てが好きだ。「福島には何もないと言う人がいるけれど、いえいえ違います。海や山の景色、おいしい食べ物、人々の優しさ。福島には何でもあります」と話し「大熊の山の景色は、ため息が出るほど美しいです」と充実した日々を送る。

 農園の夢に向けては、日本語を勉強しながら半年かけて事業計画書や収支計画書を作り、大熊町役場に構想を売り込んだ。何度も町を訪ねる中で、町内の農地を紹介してもらった。

 今春から大川原地区の約1.7ヘクタールの農地で、エミリーさんが一番好きな果物の木イチゴをはじめ、野菜やハーブなどを栽培し、早ければ今夏にも初収穫を迎える。将来的には「親子が木イチゴ狩りをしながら、里山の風景を楽しんでもらいたい」と夢を膨らませる。

 農地で育てる作物は、農薬や肥料を使用しない予定だといい「強くても、弱くても、自分のペースで大きく育てばいいと思う」。そう話したエミリーさんは、大熊で育つかわいらしい木イチゴの苗木を大事そうにめでた。(渡辺晃平)

 【12年の歩み】

 東京に住み出して約10年が過ぎた2021年2月、会津若松市に移り住んだ。県の事業「来てふくしま体験住宅提供事業」を活用しての移住で、赤べこのイラストやオリジナルグッズ制作などを通じて本県の魅力を発信している。その後は大熊町での農業を見据えていわき市に拠点を移し、今年2月に大熊町に引っ越した。