忘れない郷土を教訓を、つなぐ若者自らが 福島県追悼復興祈念式

 
若者のことばで本県復興の希望や現実を伝え続けていくことを誓う(左から)林さん、渡辺さん、高橋さん

 11日に福島市で行われた県主催の東日本大震災追悼復興祈念式では、324人の参列者が犠牲者に黙とうをささげるとともに、次世代を担う高校生が震災、原発事故に向き合い、本県復興への誓いを新たにした。

 17歳「光と影」つづった1300字

 福島に向き合い、次世代につなぐ。明るい希望だけではなく、やるせなさが込み上げるようなつらい現実も...。「若者のことば」で壇上に立った、いずれも会津高2年の林文子さん(17)、渡辺隼太朗さん(17)、高橋桜さん(17)は、復興の歩みに加え、県民が抱えた苦悩、葛藤を伝え続ける決意を約1300字に込め、3人で言葉を紡いだ。

 震災当時、渡辺さんと高橋さんは会津若松市、林さんは東京都でそれぞれ暮らしていた。幼かったこともあり「(震災の)経験、体験、記憶は薄かった」(渡辺さん)。震災から2年後に会津若松市に引っ越してきた林さんは、今では人生の半分以上を本県で生活していることになるが「大切な故郷」で起こったこと、という実感はなかった。

 若者のことばの打診が県からあったのは2月中旬ごろ。メッセージを作る上で3人の思いが一致したのは「どのようにして風化を防止していくか」だった。

 東京電力福島第1原発事故による避難区域は徐々に縮小し、一時は55カ国・地域が出していた県産食品の輸入規制は12カ国・地域まで減った。スピーチでは、復興の「光」を表す歩みとしてこれらを紹介した。

 その後、高橋さんは呼びかけた。「明るい姿だけが福島の全てでしょうか」。昨年、富岡町を訪れた際に避難指示が解除されて町内で居住環境の整備が進む一方、荒れた田畑や未整備の公園も目の当たりにしたからだ。「明るい姿はもちろん、知って受け止めなければならない現実や課題もあった」。脳裏には町内の光景が浮かび、壇上で思わず涙がこぼれた。

 当たり前の日常を一瞬で奪い去った震災と原発事故から12年が過ぎ、未曽有の複合災害を知らない世代が次々と誕生している。

 約5分のスピーチを終え、林さんは「自分の記憶は薄いが、ゼロではない。一つでいいから伝えていく」、林さんは「福島で起きたことを伝えられる人間になる」、高橋さんも「震災について知り、体験したことを自分で説明し、福島出身と誇りを持って言えるようになる」と語った。3人が立てた誓いには、震災を知る県民として「光と影」が入り交じる「福島」を伝承していく覚悟がにじんだ。

 「無念、今も心に」 遺族代表、南相馬の宮口さん

 遺族代表の言葉を述べた南相馬市原町区の宮口公一さん(65)は両親を失った悲しみから「この時の私の『無念』は今も心に深く重く横たわっている」と胸の内を明かした。

 同市小高区にあった自宅は津波で流され、東京電力福島第1原発事故で立ち入りが禁止された。津波にのまれた父貝治(ともはる)さん=当時(75)=と母キクさん=当時(76)=を自ら捜すことができなかった悔しさを今も感じるためだ。

 震災当時、福島第2原発で災害対応に追われた宮口さんは仕事を終えると避難所に駆け付けたが、両親の姿はなかった。近所の人が「一緒に逃げよう」と声をかけたが、両親は自宅を片付けるために避難しなかったと聞かされた。宮口さんは、すぐに捜しに行きたい一心だったが、原発事故がそれを阻んだ。貝治さんとキクさんの遺体は4月下旬に見つかり、8月にDNA鑑定で身元が確認された。

 宮口さんは「あの時一緒に逃げてくれれば」と唇をかむ。だからこそ「自分のような遺族を一人でも減らしたい」との思いから「危険に遭遇したときは、まず『逃げる』ことが大切。災害時に家族一緒とは限らない」と力を込め、防災意識を高める重要性を訴えた。

 知事「福島を再び希望の地に」

 内堀雅雄知事は式辞で「被災の地、原発事故の地と定義づけられた福島を、再び希望の地、復興の地へと変えていくため、全力で挑戦を続け、必ず復興を成し遂げる」と誓った。

 内堀知事は、原発事故による帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除などで本県復興が「新たな段階に向けた大きな一歩を踏み出した」と語る一方、廃炉と汚染水・処理水対策や風評と風化の問題など今も多くの困難があると認めた。

 式後、報道陣に「12年が経過し、国内外でも県内でも風化が進む中、震災と過酷な原発事故に見舞われた経験と教訓を次の世代や国内外に発信し続けていくことが大切だ」と述べ、本県の魅力を体感してもらう取り組みを先頭に立って進めていくとの決意を示した。

 首相「帰還に向け支援進める」

 昨年に続いて県主催の式に参列した岸田文雄首相は「国が前面に立って、安全で着実な廃炉と、帰還に向けた生活環境の整備や産業・なりわいの再生支援を進める」と決意を語った。

 首相は、政府が4月に浪江町に設立する福島国際研究教育機構や、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の避難指示解除に向けた取り組みに言及し「福島の本格的な復興・再生、東北の復興に全力を尽くしていく」と誓った。

 首相は式後、報道陣に「関係者の絶え間ない努力によって復興は着実に進展している一方、いまだ避難生活を送られている方をはじめ、地域によって復興の状況はさまざまだ」との認識を示した。

 その上で、被災者の心のケアや、原発事故からの復興に向けた中長期的な対応などを「重要な課題」に挙げ「被災地の方々の声をしっかりと受け止め、『東北の復興なくして日本の再生なし』との強い決意の下、政府一丸となり復興に取り組んでいく」と述べた。