「解除に合わせたよう」富岡、桜も笑顔も満開
富岡町の夜の森地区を中心とした特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された1日、富岡には青空が広がり、満開の桜並木の美しさが一層際立った。春の陽気の下、旧富岡二中で開かれたイベントなどは多くの来場者でにぎわった。「本当にきれいだね」。町民はそれぞれの思いを抱えて節目の日を迎えた。
「桜は朝起きて、2階から見たよ。こんなに早く咲いて、解除に合わせたようだな」。昨年4月の準備宿泊開始に合わせ、夜の森地区の自宅に戻った小野耕一さん(75)は、家庭菜園の手入れなどをしながら、春の日を浴びていた。
イベント参加者「復興を実感」
震災後に草木染を学び、住まいを構えた郡山市と、工房を設けた楢葉町を往復する生活をしていた。富岡町の自宅を修繕し住むめどが付くと、工房も早く移して創作活動を始めようとしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で工事や整備などが思うように進まず、態勢が整ったのは3月に入ってからだった。最初に作った作品は、夜の森の桜をイメージした藍染めのハンカチ。風に舞い踊る花びらは、ピンクに染めた。
「自分と同年代で新しい家を建てるのはなかなか難しい。避難先との二重生活の人が多いのかもな」と、夜の森に1年住んだ経験から指摘する。ただ、そこかしこで住宅リフォームの工事などが進む。「とにかくにぎわいが戻ってくれたらうれしいな」と期待を口にした。
「さくらフェスタ」の会場となった旧富岡二中では、焼き鳥やピザなどのキッチンカーが出店し、町のよさこいグループなどがステージでパフォーマンスを披露した。レジャーシートを敷いて食事を楽しむ人の姿もあった。
富岡町の会社員山内隆生さん(42)も会場を訪れた一人だ。震災後はいわき市に避難したが「自然あふれる富岡が良い」と、昨年帰町した。「昨年より来場者が増えている。避難指示解除もされ、町の復興が進んでいることを実感するね」。期待するのは、友人や知人のさらなる帰還だ。山内さんは「町に雇用が増え、多くの人に帰りやすくなってほしい」と笑顔を見せた。
広野町で新生活を始めている池田正子さん(70)は、広野の友人を連れて訪れた。富岡でマッサージ店を営んでいた夫の寿郎さんは、震災の翌年に他界。亡き夫のことを思い出しながら心静かに桜並木を歩いたという。「ばったり知り合いにも会えたらいいなとも思ったの」。暮らしが戻りつつある夜の森で、新たな人の出会いが生まれていく。
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