大熊っ子も住民も笑顔 14歳・石井さん誓い「未来を切り開く」
東京電力福島第1原発事故による全町避難を乗り越え、12年ぶりに子どもたちの歓声が大熊町に戻ってきた。10日開校した教育施設「学び舎(や)ゆめの森」に通う26人の"大熊っ子"は、待ちわびた大勢の住民から拍手と「おかえり」の祝福を受け、大熊の地での学校生活をスタートさせた。
大川原地区にある交流施設linkる(リンクる)大熊で行われた「始まりの式」には子どもたちと保護者、来賓、住民ら約200人が出席した。児童生徒は緊張した面持ちで入場し、こども園の園児は保護者に抱っこされて席に着いた。
「皆さんに立派な大熊っ子に育っていく姿を見せられるよう、誇りを持って自分の未来を切り開いていきます」。代表で中学3年に当たる9年の石井埜乃佳(ののか)さん(14)が誓いの言葉を述べると、会場は大きな拍手に包まれた。
こども園には1~2歳児もいるだけに、式の最中に泣き出したり、笑い声を上げたりする子もいて、出席者がマスク越しに笑顔をのぞかせる一幕も見られた。児童生徒が校歌「学び舎ゆめの森のうた」を元気に合唱して式を締めくくった。
「社会と理科の授業が楽しみ。大熊のいいところをいっぱい知りたい」。富岡町の富岡小から転校した3年の野川煌冴(こうが)さん(8)は、新しい学校生活への期待に胸がいっぱいだ。
野川さんは両親の職場が大熊町にあるため、家族で引っ越してきた。母智登世さんは「大熊の自然の中で伸び伸びと優しい子に育ってもらえれば」とわが子の成長を願った。
新入学児童の後藤琉清(りゅうせい)さん(6)は「新しい友達とたくさん遊びたい」と目を輝かせた。算数と英語の授業が楽しみで「勉強も頑張る」と声を弾ませた。
地域に帰ってきた子どもたちの姿に、住民の喜びもひとしおだ。集まった住民と出席者が花道をつくり、子どもたちを出迎えた。花道に加わった同町の村井光さん(73)は「これからの大熊を背負ってほしい」との思いを込め、式場に向かう一人一人を見送った。
「大人、子どもといった垣根を設けず、一つの家族として気さくに接して育んでいきたい」とほほ笑んだ。(小野原裕一、渡辺晃平)
26人の物語紡ぎ出す 南郷園長・校長が決意
学び舎ゆめの森の園長・校長に就いた南郷市兵(いっぺい)さん(44)は式で「子どもたちの『好き』と『なぜ』を学びの出発点とし、ゆめの森から26人の物語を紡ぎ出していく」と決意を語った。
南郷さんは前任のふたば未来学園中・高で開校当初から副校長を務め、原発事故の被災地で子どもたちと向き合ってきた。「私たちは原発事故や新型コロナウイルス禍を経験し、当たり前の日常の尊さを知っている」と思いを新たにする。
学び舎ゆめの森は校舎の建設が遅れ、1学期中は町内の公共施設を間借りして学校を運営することになるが「この数カ月、校舎がないということは、むしろどこに行って学んでもいい。震災を知らない子どもたちが多いので、子どもたちとどんどん町に出ていき、町と出合うところから始めたい」と述べた。
この日は原発事故で全町避難が続いていた大熊町の避難指示が大川原、中屋敷の両地区で解除されてから丸4年の節目でもあった。
式の間も会場には子どもたちの笑い声や泣き声が響き、その様子をうれしそうに見つめていた吉田淳町長は「子どもたちのにぎやかな声が、大熊を元気づけてくれる」と話した。
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