手作り図書館...憩いの場に 八津尾さん、ビニールハウスに300冊

 
「図書館を住民が絆を強める憩いの場にしたい」と話す八津尾さん=南相馬市原町区萱浜

 はた目ではごくありふれた農業用ビニールハウスの中に、本の世界が広がっていく。ビニールハウスを使って手作りした図書館が、南相馬市原町区萱浜にお目見えした。開設したのは、地元の農家八津尾初夫さん(73)。東日本大震災で妻を亡くした悲しみを今も背負うからこそ「図書館を新たな拠点とし、前向きに生きる姿を見せたい」と誓う。館内に並ぶ本を通して地域住民が絆を強めてもらうことが夢だ。

 八津尾さんの畑の一角に立つ「八津尾農園図書館」には日中、柔らかな日差しが降り注ぐ。「中に入ってお茶飲みに来たら」。八津尾さんは近所の住民に明るく声をかけた。

 館内には八津尾さんが日曜大工の腕を振るって作った本棚があり、約300冊の蔵書が並ぶ。自身が愛読していた野菜作りやガーデニングの本が中心だが、友人からもらったり、孫のために買ったりした絵本など児童書や歴史小説もある。

 この地域には震災後、津波で家を失った住民が集団で移り住んできた。八津尾さんも海岸から約500メートルにあった自宅が流され、妻一子さん=当時(57)=が犠牲となった。2014年、萱浜地区の数世帯と共に、2キロ離れた現在地に新たな居を構えた。

 ただ、慣れない土地での暮らしは最初から順調ではなかった。地域での付き合いに悩み、精神的なバランスを崩しそうになったこともあった。当時を振り返ると「誰とも会いたくないし、誰とも話したくなかった」。光の見えない日々を送った。

 そんな時、自分の畑の前をうつむいて散歩する住民を見かけた。寂しげな背中が自身と重なった。「下を向いて歩いている人を元気にしたい」。自分に何ができるか、思い付いたのは居場所づくりだった。「愛読してきた本を地域で共有できないか」。図書館を造ろうと決意し、1年前から友人にも協力してもらって準備に入った。「手作りが好きだから」とビニールハウスを一から組み立てた。

 3月の開館から1カ月。テーブルと椅子を置き、飲み物も用意しているが「みんな遠慮してるのか、なかなか入って来てくれない」と苦笑いする。それでも「みんなが集い、憩いの場になれば」と棚に収めた本を見つめる。思いの詰まった本が多くの人たちの手に取られ、ページが開かれる日はそう遠くないはずだ。

 住所は南相馬市原町区萱浜字六貫山46の3。開館時間は午前8時~午後5時。年中無休。問い合わせは八津尾さん(電話090・6222・3861)へ。(坪倉淳子)

八津尾農園図書館