避難の記憶つなぐ...初公演は朗読劇 富岡、有志ら劇団結成し発信

 
朗読劇で朗読する記録集を読む青木さん(左)と山根さん

 富岡町民や町に思いを寄せる有志が、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故に翻弄(ほんろう)された人たちの歩みを劇で伝える「富岡町民劇団」を結成する。世代、居住地、演技力を問わず、参加条件は"富岡町が好き"の一念だけ。参加者は「劇を通じて私たちの思いをメッセージとして伝えたい」と意気込んでいる。

 劇団は、2019年に町民避難を題材に手作りの町民劇に挑戦したメンバーが母体となる。町民劇を主催したNPO法人富岡町3・11を語る会代表の青木淑子(よしこ)さん(75)が劇終了後もつながっていたメンバーに呼びかけ、20~70代の男女約15人が賛同。復興への思いを同じくする新たな仲間を加えてスタートを切る。

 「セリフを覚えるのも大変で緊張したが、夢のような時間だった」。富岡町で生まれ育った西山栄子さん(70)は4年前に人生で初めて参加した劇をそう振り返る。公演を通じて感じたのは、町外に発信して記憶をつなぐ大切さ。震災から12年以上が経過し、自分自身も避難生活の記憶が薄れつつある。「あの時、震災を経験したからこそ伝えられる言葉があるはず。それを見つけたい」と意欲を示す。

 劇団の初公演では朗読劇を選んだ。作品は避難者の声をまとめた記録集「生きている 生きてゆく ビッグパレットふくしま避難所記」。富岡町や川内村を中心に県内最多の避難者を受け入れた郡山市のビッグパレットふくしまで、約5カ月にわたった避難所生活をまとめた一冊だ。

 「もう富岡には戻れないかもしれない」「仮設住宅に落ちて、もうずっとこのままなのかしら」「本当に家に帰りたい」―。避難所で足湯のボランティアをした人たちが集めた避難者の喜怒哀楽といったつぶやきの肉声を、当事者に代わって団員が伝える。

 「(自分の)取材では得られない言葉の重みがあった」。劇団の結成から参加する双葉町のライター山根麻衣子さん(47)=横浜市出身=は、記録集からそう感じた。14年9月に双葉町復興支援員としていわき市に移住し、富岡町で暮らした経験もある。ページをめくるごとに、東北沿岸部の被災地でボランティア活動に打ち込んだ自身の経験も思い起こされた。山根さんは「どれだけの思いを言葉に込められるかが大事。観客に当時の状況や背景を伝えられる言葉を追求したい」と語る。

 福島で10月初公演

 21日に富岡町文化交流センター学びの森で劇団の結成式を行い、10月7日に福島市のとうほう・みんなの文化センターで初公演を開く。青木さんは「震災時、つらい中でも生き抜こうと決意した町民が多くいた。仲間と、記憶と希望をつないでいく劇団にしていきたい」と誓った。(小野原裕一)