双葉の新生活楽しみ 「えきにし住宅」入居開始

 
えきにし住宅の入居者と談笑し、双葉町での新生活に期待を膨らませる黒津さん(左)

 双葉町がJR双葉駅西側に整備した災害公営住宅・再生賃貸住宅「えきにし住宅」が完成し、1日から全86戸で入居が始まった。東京電力福島第1原発事故に伴う全町避難を経て、帰還・移住を進める町の「住む拠点」として建設され、入居者たちは双葉での新生活に期待を膨らませた。

えきにし住宅JR双葉駅西側に完成したえきにし住宅=1日午後、双葉町

 「家の縁側で夕涼みをしたり、お隣さんと交流したり。楽しみがいっぱい」。石川県から移住した黒津今日子さん(34)は、真新しい住宅を見渡しながら笑みを浮かべた。

 黒津さんは福島市出身で実家は果樹農家。山形大農学部を卒業後、一度は鉄道会社に勤務して安定した職に就いた。しかし、憧れだった農業への道を諦められなかった。昨年10月、双葉町での事業展開を計画する石川県の農業生産法人「安井ファーム」に入社。黒津さんはその事業の担当社員として双葉に移り住んだ。

 「農業ができて、福島の復興にも貢献できる。自分の夢への第一歩になった」。今月から町内の約70アールでブロッコリーなど野菜4品種の栽培を始める予定だ。

 被災地の不便な生活環境に単身で身を置くことへの不安はない。「双葉にようこそ。よろしくね」「女子会しましょうよ」。黒津さんの周りには既に、入居者同士の輪が生まれていた。「双葉には温かい人たちがたくさんいる。私が双葉で作った野菜をみんなに食べてもらい、喜ばせたいな」

 双葉町出身の長谷川久三子さん(48)は、中学生まで双葉で過ごした。「お墓があるから、私が守ろうと思って帰ってきた」。転居を前に双葉の沿岸部を訪れた時「ああ、海のにおいは変わっていない」と感じた。

 空き地が目立つ町内の現状に「新しいものができるんだろうなという楽しみの方が大きい」と語る。今後は双葉から広野町の職場に通う生活になる。「いろんな人と交流して楽しく暮らしたい」と目を輝かせた。

 東日本大震災前まで双葉町山田地区に住んでいた鶴見博さん(72)は、自宅が帰還困難区域にあるため、えきにし住宅への入居を決めた。避難先の千葉県でも農業を営んでいたといい「近くに畑を借りて何か作りたいな」とほほ笑んだ。

 屋外空間や集会所

 えきにし住宅は町に代わって県が2019年10月に整備に入った。全86戸のうち、22年10月から順次完成した39戸で入居が始まり、今回は残る47戸が完成。住宅群には大屋根の屋外空間や集会所などがあり、住民らが交流できる。総事業費は約250億円。5月1日現在の町内居住者数は105人で、えきにし住宅には60世帯74人が暮らす。

 入居者への鍵の引き渡し式が1日、町役場で行われた。伊沢史朗町長が「お帰りなさい。そして、ようこそ双葉町へ」と歓迎した。