【震災5年インタビュー】県立博物館長・赤坂憲雄氏 再生エネ、地域に利益

「地元に雇用を生み出し、未来をつくる人材育成につながる仕組みが必要だ」。民俗学者で県立博物館長の赤坂憲雄氏は、震災と原発事故の後に本県で導入が進む再生可能エネルギー分野の産業を念頭に、こう指摘する。「その仕組みがうまく実現できれば新しい社会のモデルとなり、福島から日本社会への提案となる」
赤坂氏は再生可能エネルギーについて、県外から企業誘致を進めているだけではだめだとみる。「東京などの大企業は人件費を圧縮し、いかに利益を東京に持っていくかという発想なので、『再生可能エネルギーは雇用を生まない』と言われる。これは中央集権的な発想で、(会津で設立された新規事業者の)会津電力のように、地域で生じた利益を地域に還元する地方分権の発想が必要だ」と新しい価値観の創出への期待を口にした。
成熟社会へ価値転換
民俗学者で県立博物館長の赤坂憲雄氏(62)は、超高齢化社会の到来に備え、戦後日本が追求してきた「成長」から「成熟」へ価値観を転換する必要性を指摘、「福島こそがその『始まりの地』にならなければならない」と強調した。(聞き手・編集局長 菅野篤)
―震災、原発事故からの5年間を振り返って思うことは。
「震災と原発事故の後、日本はどう変わるべきか、真剣に考えることが必要だと考えた。戦後の日本社会には米国という理想とすべきモデルがあり、日本人はそのモデルに追いつこうと働き、豊かな社会をつくった。今は超高齢化社会の到来が避けがたい状況だが、日本がトップバッターとして背負う問題で、世界のどこにもモデルがない。人口の半数が高齢者の社会をいかに思い描くか。『成長』から『成熟』へと根底からの転換が必要だ。福島では再生可能エネルギー事業が地域に根ざしながら始まっているが、それは地域分権型社会をどうつくるかという取り組みでもある。そこに成熟社会に向けた希望が生まれている」
―原発事故被災の本県だからこそ県外発信できる価値観がある。
「その通り。福島は『始まりの土地』となり、新しい暮らしやなりわいの風景を提案すべきだ。避難指示が解除された地域に帰るのは高齢者が多いと思うが、高齢者の介護や支援を新しい産業として育てていく取り組みは可能か。日本が数十年後に迎えるであろう超高齢化社会でも安心と快適さが担保されるような仕組みを、福島から提案していくことが必要だ」
住民に寄り添う対処を
―本県の復興に向けた国の姿勢についてどう思うか。
「環境省は昨年、生活圏から20メートルの範囲や日常的に人が出入りする場所以外は原則除染しない方針を示した。批判を浴びて柔軟な対応も検討しているようだが、民俗学者から見れば家の背後の里山も川も生活圏だ。たしかに森林の除染は技術的、経済的に難しいテーマだが、だからこそ汚れた山野河海といかにつきあっていくのか、丁寧に住民に寄り添う形で対処法を探っていかなければならない」
―被災者や被災地の自立に向けた支援も必要になってきている。
「避難者らの自立を支援する方向性に異論はない。しかし生活の場や古里を丸ごと奪われた人たちが暮らしやなりわいを立て直すのは容易ではなく、自立という言葉が支援の打ち切りや帰還の強制につながらないよう慎重であるべきだ。人それぞれが抱く不安は数量化できない。全ての県民が被害者であり、東電と国は最後まで責任を果たす覚悟を固めてほしい」
『地方分権型の発想』必要
―本県の将来像をどう描くか。
「新しい先端的なテクノロジーを育てる拠点になることは、福島の将来構想にとって決定的に重要だ。しかし、それが中央集権的なシステムの中で進むなら、福島には大きな意味を持たないかもしれない。再生可能エネルギー事業も同様だ。東京などの大企業の人は『再生可能エネルギーは雇用を生まない』と冷ややかに言うが、それは人件費を圧縮していかに利益を東京に持っていくかという発想で事業を展開しているから。地方分権型の発想に基づけば、全く違う意味が生まれる。地域の風や森から生まれたエネルギーで得た利益を地域に還元することを目指す会津電力は、すでに多くの雇用を生んでいる。医療その他の先端的な研究が福島にどのような新しい雇用や人材や地場産業を生み出すか。地域を主役にすることで、新しい社会をデザインするきっかけが生まれ、福島からの未来への提案になっていくと思う。先端的な企業や研究施設を誘致することで満足してはならない。福島は原発事故で巨大な負債を背負わされたが、逆に、それに前向きに立ち向かう覚悟を固めたとき、たくさんの可能性があふれ出すに違いない。そうして福島が『始まりの土地』になることを願っている」
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