【震災5年インタビュー】詩人・和合亮一氏 心の問題は変わらず

「今していることをやめないことが大切。外側からの声で県民が手を止めてしまえば、自身が風化を招く」。福島市の詩人和合亮一氏は、こう語り掛ける。自らツイッターや全国各地での講演で情報発信を続ける中「福島に向けられる目はますます小さくなっている」と感じている。
県外に行けば復興が済んだように言われることもあるが、今も10万人近くが避難し、震災関連死も増え続けている。「県民が抱える棘(とげ)のような心の問題は、ずっと変わっていない」と和合さんは見る。県民がさまざまな思いを抱える今だからこそ、白黒で線を引くのではなく、互いに耳を傾け対話することが必要だと強く感じるという。「『風土水緑人』を失えば古里への誇りを失う。『風土水緑』は時間をかけて取り戻すことができるが、『人』は対決していても埋められない」
『福島の夢』語り合って
詩人の和合亮一氏(47)は、原発事故の影響が複雑化した今こそ「県民は対話や考える時間が必要」とし、さらに、思い切った発想のもとで「福島をつくる夢を語り合ってほしい」と訴えた。(聞き手・編集局長 菅野篤)
―震災と原発事故からの5年をどう振り返るか。
「古里で生まれ暮らしていくことの意味を問い掛け続けた。詩人室生犀星の『ふるさとは遠きにありて思ふもの』という詩の一節があるが、その反対で『近くにありて思ふもの』と、これまであまり意識することのなかった古里の在り方を深く考えることになった」
―震災直後からツイッターで発信し続け、昨夏には「未来神楽」を奉納した。どんな思いからか。
「震災で亡くなった人に思いを届け、生きている私たちが力を交換し合うことが求められていると思い、『未来神楽』を奉納した。震災と原発事故を体験し、年月が流れて『未来神楽』という創造が生まれ、それがまた新しい体験を呼び起こすようなことを、福島から起こせないかと。客席から『ありがとう』という声が聞こえ、みんなが震災と原発事故という経験を形にしていくことを求めているのかもしれないと思った」
じっくり考える時間を
―今の福島の姿をどう見るか。
「いろいろな考え方や温度差、対立があり、簡単ではない問題が多い。県民にとっては、そういう思いを受け止めたり、対話する時間がもっと必要だ。それが何もなかったかのように社会の通常の時間軸の中に福島県も組み込まれ、思いを受け止めることすらままならないまま、気ぜわしい毎日にのみ込まれている。県民はもっとじっくり、いろいろなことを考えたいのではないか。震災後に書いた『決意』という詩の中の『福島で生きる/福島を生きる』という2行。『福島で』は福島に暮らす私たち、『福島を』は避難した人たちを思って書いた。避難する人たちは孤独を感じている。こちらから働き掛けなければ、同じように福島のことを思う人たちとのつながりが、時間がたつごとに切れてしまうと危惧している」
―教育現場で日々、高校生らと接する中、震災直後と現在で生徒の変化を感じる場面があるか。
「原発事故で避難を経験した学生から、転校時に『福島をばかにされたような感じがあり悔しかった』と聞いた。子どもたちは大人と同じ目で震災を見て、感じていたと思う。大人たちが震災・原発事故とどう向き合い、新しい福島をつくろうとしているのかもよく見ている。『福島に戻って福島のために働きたい』という子どもが多いのも、震災があったからではないかと思う」
弱者に寄り添い考える
―県内の若者たちにどのように育ってほしいと考えているか。
「何かを創り上げる根気や勉強心を持ってほしい。例えば外国人のイメージが変わっていないなら福島に呼び込む何かをつくる。外に行って福島がどう思われているかを肌で感じることも必要だ。一番大事なのは、体の弱い人や高齢者に寄り添って考えること。ふたば未来学園高をつくる前に行われた子どもたちの討論の中で『高齢者福祉施設の隣に学校をつくって』という意見が出たと聞いた。そういう発想がものすごく大切だ」
―本県の将来像をどう描くか。
「ある研究グループが、森の周りを囲むように集合住宅をつくり、30年間見続けた。住民は真ん中の森でキャンプしたりコンサートを開いたりと、森を中心に過ごし、30年たつと、成長した子どもたちが集合住宅の周りに家をつくって二重三重に増えていった。つまり子どもたちには森が古里で、その森の近くに住みたいと家をつくったという。ものづくり、街づくりの発想は無限にあると思う。福島でそういう思い切った発想が生まれて発信された時に、日本中、世界中から『福島に行ってみよう』ということが起こるのではないか。そういう夢を語り合ってほしい」
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