【震災5年インタビュー】劇作家・演出家・平田オリザ氏 大震災体験の子は宝

 
 ひらた・おりざ 東京都出身。国際基督教大教養学部卒。ふたば未来学園高で特別授業を行う。本県を舞台に脚本・演出したオペラが今年1月にドイツの州立歌劇場で上演され、大喝采を浴びた。53歳。

 「東日本大震災を思春期に体験した子どもたちは他の学年に比べ、圧倒的にしっかりしている。これは福島県の宝。この宝を育てるために、福島県は人もお金も惜しんではならない」。劇作家・演出家の平田オリザ氏は、本県の大人の役割と責任を指摘する。

 震災前から県内の高校生の指導に関わり、ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」メンバーでもある平田氏。1月には大震災後の本県で暮らす人々を描いたドイツのオペラ「海、静かな海」で脚本・演出を担った。「福島を出て行く人の寂しさと、残る人の悲しさや苦しさの両方を描きたいと言い続けてきた。時間はかかると思うが、出て行く人も残る人もつらいんだ、ということを互いに思いやれれば、互いを責めることが少なくなるのではないか」。県内公演の機会を探る。

 生きがい持てる政策

 劇作家の平田オリザ氏(53)は震災後に特に重要課題となった県内の人口減少対策について「若者が生きがいや人生の楽しみを持てるような社会をつくるため、まちづくりの政策自体を勇気を持って変えていかねばならない」と語った。(聞き手・編集局次長 小野広司)

 ―震災前から県内で若者の指導に携わってきた。この5年間の本県の歩みをどう見るか。
 「他の被災県と比べて福島は特殊。原発事故でコミュニティーが完全に寸断されたため、なかなか回復が難しい。これは水俣病と似ている。水俣から学んだ知恵を絞って回復の期間を縮め、水俣でいう『もやい直し』、複雑に絡まった『もやい』をほぐしていく方向になっていけばいい」

 ―特別講師を務めるふたば未来学園高の開校前、「子どもが『復興』を背負い過ぎる状況をつくりたくない」と話した。現状は。
 「やはり生徒にプレッシャーがかかっている。恋愛やクラブ活動など震災で奪われた『普通の高校生として生きる権利』をまず回復してあげたい。その上で復興に貢献したいというのであれば、それは後押ししたい。そもそも大人の責任なのに、子どもたちに『復興の礎に』なんて言えない。僕自身が文化人として原発を止められなかったじくじたる思いがある」

 ―ふたば未来学園高の1年目の手応えは。
 「非常にいい指導がなされている。中学校まで不登校だった子が学校に通えるようになったり、目に見える成果も上がっている」

 演劇は現実の問題示す

 ―生徒が発信力を身に付けるため、教育関係者は何をすべきか。
 「トラウマが残る体験をした子どもたちでも、数カ月、数年後にそれを美術や音楽、演劇などで色や形、言葉にして気持ちを落ち着かせることができる。演劇は何かの解決策を示すのではなく、いろいろな現実の問題をはっきり示すので今の福島に向いている」

 ―県内の中学、高校生による創作ミュージカル「タイムライン」の公演まで1カ月。監修の立場から作品のメッセージと活用策は。
 「復興礼賛にするつもりはない。福島の今の中学、高校生が何を感じているかを、解像度を上げてストレートに劇やミュージカルにできればと思っている。作品の質を高めて、県外、国外まで持って行ける作品になれば一番だ」

 「福島を忘れない」発信

 ―ドイツで上演されたオペラ「海、静かな海」の脚本と演出を担った。欧州での反響は。
 「5ステージとも2000人のほぼ満員、最終日は総立ちで非常に大きな反響だった。オペラ作品として絶賛された。私の仕事は福島に残る人の苦しさと、出ていく人の悲しみや寂しさを描くこと。それを通じて『福島を忘れない』というメッセージを世界中に発信することだ。もしも日本公演が実現した場合は、スタッフもぜひ福島に行きたいと言ってくれている」

 ―若者が本県に残るという選択肢を持てるための環境づくりは。
 「Uターン、Iターンを選ぶ基準は環境と教育、広い意味での文化。雇用は基幹産業があると強い。福島は農業も含め基幹産業がないわけではないが、これから大きな成長は望めないから、人口減少の坂を緩やかにし、地域内で経済を回して、若者たちが生きがいややりがい、楽しみを持てる社会に転換しないといけない。福島はマイナスイメージを背負っただけにUターンなどがなかなか期待できない。企業誘致と雇用政策でミニ東京をつくるのではなく、まちづくりを変える必要がある」

 ―本県の若者にエールを。
 「大変な経験をしたけれども、その経験は他者を思いやったり、社会について関心を持ったり、いずれ大人になったときに身に付けなければならないことを、少し早い段階で集中して経験した。それを大人になっていくときに、逆に生かしてもらいたい。何かの役にきっと立つから」