【震災5年インタビュー】コピーライター・糸井重里氏 平等な地域間競争に

「被災地が特別視されることは徐々になくなり、他の地域と同じ背丈になった。ヨーイドンとなった時にどう勝負するか考えておくべきだ」。本県などでの被災地支援に取り組むコピーライターの糸井重里氏は、震災5年の節目が経過した後、被災地を特別視する空気が薄くなり、被災地は「地方創生」に代表される平等な地域間競争の中に入ると読む。
被災地の市町村が地域間競争で埋没しないためには「復旧からもう一つ先に何をやりたいのかを考える必要がある」と、被災地側の主体的な判断を促す。ただ、「被災地では震災1年目から『忘れられる』ことを心配していた。でも、完全に忘れている人なんて、いない」と温かい目線を送り続ける。復旧から復興へとつなげていけるかどうか、その鍵は「他の地域と行き来ができるかどうかだ」と指摘した。
『福島の良さ』考えよう
コピーライターの糸井重里氏(67)は、震災5年後の本県の地域づくりに自分たちが本当にやりたい理想を考え続け、発信する努力が必要だとアドバイスする。(聞き手・編集局次長 小野広司)
―被災地支援のきっかけは。
「単純に言うと震災は『わがこと』でした。大震災の日は屋外のスタジオの番組の収録中に大きな揺れを感じた。その時は自分たちの地域に大変なことが起きたと思った。後に報道で東北が一番大変なことになっていると分かってきたが、自分たちとつながった場所で起きた災害と認識できたことが、支援に入った原点だと思う」
「血行が良くなる」活動
―どのようなスタンスで被災地支援に取り組んできたか。
「2011年11月に宮城県気仙沼市に拠点をつくった時のあいさつ文で『たいしたことはできないけれど、気仙沼を舞台にして何かをすることで、みんなの視線が集まり、人の行き来が盛んになって、土地の血行が良くなるんじゃないかと思っています』と書いた。今の被災地はがれきも片付いているし、何か新しい形の支援をつくるべきだ。被災地で何をするとかよりも、単純に、被災地に来た、しゃべった、友達になったとか、被災地と被災地以外が行き来する『血行が良くなる』活動をすることが新たなテーマになる。福島は『あそこは別枠だ』とギブスで固められていた。そろそろマッサージや針を打ってほぐしていくべきだ」
―血行を良くするには、具体的にどのような取り組みが必要か。
「意志や決意でできることは、もう出尽くしたと思う。支援が社会運動のようになると、優等生のような答えでないと『不純だ』とか言われて不自由になる。例えば原発のそばにコンビニができたというニュースがあれば、それはある意味で商売になるからできた。それで良いと思う。助けるぞという気持ちもあると思うが、商売になるとか、面白いからとか、もっと幅広い関心でいい。被災地の側も『みんなおいで』という寛容な構えで人に集まってもらえばいい。その方が人間理解として深みがあると思う」
―放射能について理解する本「知ろうとすること。」をまとめた。どのような考えだったか。
「誰が見ても『そうだよね』という内容をまとめようと考えた。何を言っても耳を貸さない極端な人たちはいる。そういう人たちが両方の端に何割かいるとして、真ん中で揺れている65%ぐらいの普通の人たちに向けてつくりたいと思った。私も含め真ん中の人は、きょろきょろしながらいろいろな話を聞いている。専門的なところに行くと置いて行かれちゃうし、極端な意見にはひきずられてしまうリスクもある。真ん中にいる人に分かってもらう内容にした」
「自然」遠ざけられている
―第1原発に入った。印象は。
「廃炉作業の最前線だなという印象があった。廃炉はこれからの世界にとって必要なこと。あの場所が技術のハブ(拠点)になって、いろいろな人が学ぶ場所になればいいと思う。また、毎日7000人が働く場所にもかかわらず、雨水が土に染み込まないように敷地内の土が舗装されていて、全体に人工的な風景になってしまっている。例えば、あの中にツリーハウスを造ったら、働く人にとっても、訪れる人にとっても印象はずいぶん変わるだろうと思った」
―震災6年目以降の福島の地域づくりにアドバイスを。
「福島ならではのことだけを頑張ろうと思ったら難しい。本当に良いアイデアは、どこの地域でやっても成り立つもの。そのためには、一番やりたい理想、こうなったらうれしいという理想を突き詰めて考えた方がいいと思う。達成しなければいけない条件のことは後から考えればいい。原発事故のマイナスを埋めることは大きな仕事だが、福島ですごく面白いモノがひょいと生まれれば『怖い』とかの感情を超えて『じゃあ福島に行ってみよう』となりますよ」
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