【震災5年インタビュー】クリエイティブディレクター・箭内道彦氏 福島に感謝し生きる
この5年間、福島にいることの意味を自分に問い掛けた県民は多い。県のクリエイティブディレクターも務める箭内道彦氏は「福島で生まれたから、こんな自分。自分は自分でしかないし、それは福島のせいだし、福島のおかげ。やっとそのことに感謝できる年になった」と語る。
さまざまな分野で古里を発信し続けた5年間を振り返り「頑張る必要のないことに頑張ったり、いまだ間違った情報を振りまく人への反論だったり、本当にお互い『お疲れさまです』と言いたい」と話す箭内氏。「時間が解決することとしないことがあり、より問題を大きくすることもあるが、5年という時間が証明したこともある」と総括した。その上で「福島に住めなくなると言った人の話は外れた。風評に立ち向かうにはこれだけの時間を味方にしないといけないのか」と時の流れを思う。
「応援団」増やしていく
風評対策や復興に向けて歩む本県の現状を発信する役割を担うクリエイティブディレクター箭内道彦氏(51)は「ただ発信するだけでなく、多くの人が考えるきっかけになったり、福島を好きになる人が増えるなど活性化に貢献したい」と、これまで多くの広告を手掛けたクリエイターとしての視点から福島の情報発信を語る。(聞き手・本社報道部長 佐藤掌)
悪魔は僕らの心にも
―風評払拭(ふっしょく)の難しさとは。
「シンプルにいうと人。人の心の中にある疑心暗鬼や不安、上から目線で見てしまう感覚。そういうところに悪魔が入り込み、正しい情報や県民の姿が見えなくなる。それは僕らの心の中にもある」
―県のクリエイティブディレクターとして心掛けていることは。
「『安全です』『知ってください』だけでは一人一人に届かない。広告の受け手は多岐にわたる。就任時『きれいな包装紙だけで包むことはしない』と誓った。進んでいること、できていないこと、両方を伝えることをポイントにした」
―本県の現状を発信する上で、どんな受け手を意識しているか。
「(福島を)理解してくれる人、そうでない人、どちらの人が見ても違う見え方がしたり、重層的、複合的にしている。3月12日付の県の全面広告では民友など地方紙と全国紙で違うものにした。3月になると震災についての番組が増え、被災者には見たくないという人もいる。県内メディアは大事。県内に住む人は地方紙をちゃんと読むことをお勧めしたい」
―情報発信も、押し付けがましいと受け入れられない。
「買ってください、食べてください―とストレートに言うと引いてしまう人もいる。だが生産者が誇りを持ち、努力して作っているという事実は否定できない。その事実を提示するだけ。『かわいそう』『大変だから』という気持ちも大事だが『他と比べておいしいから』買うことを大切にしたい。震災前から福島が全国と競争するときに必要なこと。それを忘れると未来に力強くつながっていかない」
復興のトップランナー
―日本酒PR動画も制作した。
「福島の日本酒は復興のトップランナー。僕もそうだが、福島県民は自慢するのが苦手。そういう人たちに有効なのは他人が褒めてくれること。県産酒は品質が高く、造る人の誇りも努力もある。広告では自薦と他薦のうち、他薦の部分が有効。酒のコンクールで世界一になった。「頑張ってます」というよりはるかに強い。福島の多くのものがそうなってほしいが、それには応援団を増やすことだ」
―福島ガイナックスと、本県の光と影を描いたアニメを作った。
「ガイナックスが福島にできた意味は大きい。復興の段階で、こういった文化や日本中の人が興味を持つジャンルの会社が生まれたのは素晴らしいこと。そこで生まれたものは福島県産品。良い県産品をどんどん生み出してほしい」
―被災者の自立について、どう考える。
「自立できるのにしない人、自立したいけどまだする力がない人もいる。そこは丁寧に見ていかなければいけない。僕が若いころ、福島に対して苦手だったのは、口出ししたり、ねたんだり、情の厚さだったり、狭いコミュニティーの中で干渉し合うところ。それが賠償金をめぐるいざこざにもなっていると思うが、コミュニティーが自立からこぼれ落ちそうな人たちを支え合うことが大切。『独り立ち』の独が、孤独の独になると危うい」
―5年たっても独り立ちできない人もいる一方、もう助けはいらないという人もいる。
「200万通りある。もう大丈夫という空気が先に出ると、大丈夫でない人が苦しくなるし、福島はまだ大変だということにこだわり過ぎると、大丈夫な人に不要な風評がのしかかる。見極めが大事。苦労している人を元気な県民が助ける構図を作れたらいい」
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