「伝承館」開館、風化させぬ震災 原発事故や苦難の記録170点

 
東京電力福島第1原発事故直後の対応ゾーンでモニターに見入る来館者

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の記憶と教訓を後世に伝える県の記録施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」が20日、旧避難指示解除準備区域の双葉町中野に開館した。未曽有の複合災害から丸10年が迫る中、約170点の展示資料や映像、語り部の肉声などを通じて、本県が歩んできた苦難と再生の記憶を継承、発信することで風化防止を図る。

 地上3階建ての館内は、震災・原発事故を時系列に沿って伝える六つのゾーンで構成されている。このうち、導入部分の「プロローグ」では、7面の大型スクリーンを使い、震災前の様子から震災と原発事故の発生、避難生活を経て復興へ歩む姿などを再現している。各ゾーンには、津波で基礎ごと流された郵便ポストや放射性ヨウ素の測定結果を手書きした旧原子力災害対策センターのホワイトボード、震災当時の福島民友新聞の紙面などを展示。原発の「安全神話」を覆した事故の衝撃や県民の混乱、復興の歩みを伝える。

 県が収集した資料は約24万点に及び、随時入れ替えたり、企画展を開催したりして効果的に活用する。震災の教訓を学ぶための研修プログラムの提供や原子力防災の調査・研究などの事業も展開していく。

 浪江町から南相馬市鹿島区に避難している女性(76)は館内を巡った後、「事故直後の混乱、苦労を改めて思い出した」と話した。「私たちの苦しみ、怒りが少しでも多くの人に伝わってほしい」と語り、風化防止への希望を託した。

 施設を管理する福島イノベーション・コースト構想推進機構によると、初日の入館者数は1051人だった。20日には、施設の隣接地で整備が進む県復興祈念公園のうち、広場など約2ヘクタールの利用も始まった。

 教訓継承へ展示に工夫を

 20日に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館は、原発事故後の対応や本県復興の歩みを分かりやすく伝える展示方法を重視した。県外からの来館者は「事故の経過を再確認でき、地域の復興にも希望を持てた」と語っており、一定の成果があったと評価できる。ただ、事故を身をもって経験した県民からは「インパクトに欠ける」との指摘があったことも事実だ。

 原子力政策を推進した行政側の責任や事故の原因に触れる資料はほとんどなかったことなどが背景にあるのではないだろうか。国内で原発事故を唯一経験した本県だからこそ、原子力災害が再び起きないよう過不足のない情報発信を心掛けることが不可欠だ。地域と世代を超えた記憶、教訓の継承という目標に向け、さらなる工夫が求められる。

 伝承館の隣接地では、県復興祈念公園(浪江、双葉町)の整備が進んでいる。研修旅行を含めより多くの人に伝承館を訪れてもらうよう、祈念公園との効果的な連携も必要となるはずだ。伝承館を通じて記憶だけでなく、教訓をつなぐため、県の手腕が試されている。