「曖昧な制度」地域を破壊 大阪市立大教授・除本理史氏に聞く

 
特定避難勧奨地点の制度は「原発事故が地域を破壊した典型的な事例」と話す除本氏

 伊達市や南相馬市で指定された特定避難勧奨地点。地域にどのような影響をもたらしたのか。公害問題や東京電力福島第1原発事故の被災地の地域再生を検証している大阪市立大の除本(よけもと)理史(まさふみ)教授(49)=環境政策論=に聞いた。

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 特定避難勧奨地点は、政府が「避難指示区域は広げないが、放射線量が高い地域にどう向き合うか」という、相反する話を両立させようとして作った曖昧な制度だと思う。背景には、地元の自治体の思惑などもあったのだろう。

 その結果、世帯単位で指定の有無が分かれることになり、地域コミュニティーの分断は非常に深刻なものになった。ほかの(面的な)避難指示が出た地域とは違う形で、原発事故が地域を破壊した典型的な事例と言えるのではないか。

 原発事故の避難を巡る民事訴訟では、少なくとも原発の事故収束宣言「ステップ2」に移行するまでの2011年中は、政府から避難指示が出ていない区域についても「避難の合理性」を認めることが司法判断の主流となっている。その意味で考えれば、特定避難勧奨地点にも曖昧ではなく、地域単位の十分な対策が必要だったはずだ。

 例えば、避難と滞在を選択できるようにすることが考えられただろう。避難を希望する人には避難の支援をする、避難をしないでとどまる人については放射線量を低減して生活できるような対策を講じる。それぞれが納得しているので、避難した人を白い目で見るようなこともないし、ねたみなどもない。ただ、政府はそれをやらなかった。

 一つの方向で結び付き

 伊達市での裁判外紛争解決手続き(ADR)への和解申し立ては、地域の分断の修復に有効だったと考える。得られた金額の多寡ではなく、住民が一つの方向で結び付いたプロセスが大事だ。公害で地域が分断された熊本県水俣市の(患者とそのほかの市民が対話により関係を改善した)「もやい直し」のような機能を果たしたのではないか。

 原発事故で地域が分断されると、同じような境遇の間柄では自由に物を言うことができるが、立場が異なる人とはなかなか対話ができなくなるという問題が生じる。分断が被災者の自己抑制を生んで発言を控えるようになり、原発事故の風化は加速していく。政府や自治体には、今までほとんど手付かずとなっている目に見えない地域社会の結び付きの再生に力を注いでいくことが求められる。